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同人誌見本
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Genethliacon
(2011/10/30)
バニー誕生日本。犯罪組織を倒すため、バーナビーは自分の誕生日パーティーを囮にすることを提案する、他1編。空白の26歳と、復帰後の27歳の物語。柚さんと合同誌。
【R18/A5/52P/¥500】- 書店:K-BOOKsとらのあなリブレット
1
一九七八年十月三一日

もうすぐ日付が変わる。
バーナビーはすっかりとっ散らかった部屋を見渡した。
ビールの空き缶、シャンパンとワインの空き瓶、ピザの外箱に、オードブルが少し残った皿。そして、ホールケーキの残骸。
その中に気持ち様さそうな寝息をたてて、まるで食べ残しみたいに虎徹が転がっている。
「僕の誕生日祝いなのに、僕が片付けさせられるなんて」
おおいに嘆息して、バーナビーは部屋を掃除し始める。
バーナビー・ブルックスJr.が、ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹とヒーロー初のコンビを組んで、一年と一ヶ月。
一度目の誕生日は、虎徹が提案したサプライズ。
虎徹からはポイントを、仲間達からは兎のぬいぐるみをもらった。
あのころは、無遠慮に人の心を荒らす虎徹が酷くうっとおしくて、なのにそれを少し嬉しいと感じてしまった自分が嫌で、ますます虎徹を拒絶しようとしていたっけ。
二度目の誕生日、つまり今日は虎徹が普通に祝ってくれた。
名前入りのプレートを乗せ、年齢分の蝋燭を挿したホールケーキなんて二十年ぶりだ。いい歳をしてと思ったものの、それでも純粋に嬉しかった。
虎徹が、心からバーナビーの誕生日を祝ってくれたということが、もうそれだけで嬉しかった。
一年前とはえらい違いだ。
形として残るプレゼントは今回も贈られなかったが、祝ってくれたその気持ちだけでバーナビーは満足だった。
「虎徹さん、寝るならベッド行ってください。片付けの邪魔です」
「んー……」
青年は眠る男を揺さぶる。うっすらと目を開けたものの、虎徹は起きようとしない。
「もう、また。仕方ないですね本当に」
こうするのはもう何度目か。バーナビーは酔いつぶれた虎徹の腕をとり肩にまわすと、ずるずると引きずるようにして男を隣の寝室へ運ぶ。
虎徹は市長の息子を預かってから、よくバーナビーの部屋に酒盛りをしに来るようになった。そして、頻繁にこうして眠ってしまう。最後まで起きて片づけを一緒にしてくれるのはまれだ。
虎徹いわく『いや、俺ちゃんと片付けようと思ってるよ。でもバニーんちキレイだし広いし夜景最高で、つい飲みすぎて気持ち良くそのまま……ってなっちまうんだよな〜』だそうであるが、なんという言い訳だ。
翌朝、必ずバーナビーは虎徹を叱るが、そうやって次にきちんと起きて片づけてくれたためしがない。
(ぶん殴ってでも起こさない僕が悪いのかもしれないけれど)
バーナビーにとって、虎徹の無防備な姿は信頼と一緒だった。まあ、このひとの場合、相手が誰であってもそうするだろうけれど。でも、そんな態度をあなたにはとれますよ、と示してくれることに違いはない。
バーナビーは、それを同じ寝台に眠ることで応えた。
不本意ですが仕方ありません。一つきりしかないですし、広いからやむなく寝かせてあげているだけです。
虎徹は、きちんとわかってはいないだろうが感覚的には理解はしているはずだ。
そういうわけで、今晩もバーナビーは虎徹をベッドへ寝かせる。一旦リビングに移り、すっかり片付け終わって眠る支度をしてから、バーナビーは寝室に戻った。
バーナビーはベッドの横に立つと虎徹を見下ろした。
今日までは、そうやってお互い態度で信頼を示してきた。バーナビーと虎徹はいいコンビだった。
けれど。
バーナビーはそっとベッドに乗ったが、最高級のスプリングは弾力を返して虎徹の躰を揺らした。
バーナビーの心が、その何倍も揺れる。
揺れるな。揺れるな。揺れるな。
しずまれ鼓動。あがるな息。どうか平静を。
「虎徹さん」
震える指先で、健やかに休む男の頬を撫でた。反応はない。バーナビーは虎徹が決して起きないことを確信する。
確信しても、鼓動は早鐘を打ち震えが止まらない。荒くなる呼吸を必死に押さえつけ、少しずつ虎徹の顔に近づく。
意外と長いまつ毛。
鼻腔をくすぐるプールオムのラストノート。
手のひらから伝わる、頬の熱ときめ細やかな肌の感触。
今ならまだ引き返せる。
今ならまだ間に合う。
今ならまだ。
耳の奥にぜいぜいと呼吸音が障る。脈がどくどくと早鐘を打って、からからに喉が渇いてる。ごくりと唾を呑み込んだ、中途半端に張り付いた粘膜が痛い。
後戻りなど、できなくてもいい。後悔はしない。絶対に。
決意し、もう一度喉を鳴らして喉を潤す。
発音は明瞭でなければならない。声量は小さくなければならない。聞き間違いなどと思わせてはならない。
ゆっくりと深呼吸をする。吐き出す息に想いを乗せた。
「好きです」
バーナビーは越えてはいけない線を、越えた。
虎徹の唇に触れるか触れないかのキスをする。
ほんの一瞬、かすかにしか合わせなかったというのに、燃えるように唇が熱い。熱は即座に拡散する。
顔が熱い。首が、胸が肩が、腕が腹が腰が、背が腿が脛が足先が。
とうとう溢れ出てしまった気持ちが、躰を焼き焦がす。
静かに目蓋をつむり呼吸をする虎徹の顔を間近に見下ろして、バーナビーは男の頬から手を退かせる。
名残惜しそうにゆっくり体も離し、一回半は寝返りせねばぶつからない、ほぼ端っこに寝転んだ。熱い躯にシーツが冷たい。暴れ出しそうな熱を無理矢理押さえつけて、バーナビーは眠りに落ちる。
まるで、何事もなかったかのように。
明日からも、二人はバディだ。





2

『黙れ! 二度とワイルドタイガーの名を穢すな!!』
バーナビーを二度と悲しませたくない。
その気持ちの本心は、悲しむバーナビーを見たくないという、むしろ自身の感情だったことに虎徹は気付いてしまった。
失ってから初めてわかるというのは、陳腐で使い古された理論だとわかっていても、まったくその通り過ぎて言葉もでない。
隣にいるのが当たり前になっていた。十年間も独りでヒーローをしていたのに、たった一年ちょっと一緒にいただけの相手へこんな感情を抱くようになっていた。
バーナビーの記憶が改竄されて感じた、胸の痛み。ジェイク戦の前に投げつけられた信じてくれなかったのかとう言葉よりも、何倍も鋭く胸を引き裂いた。
離れたくないのは自分のほう。
一緒にいたいのは自分のほう。
バーナビーといられないことに、耐えられない。
だから自分から離れた。
もう二度と、失って悲しみたくないのだ。
想いを通わせた歓びより、捨てられてしまうかもしれない恐怖が勝る。
なんて臆病な自分!
しかも、卑怯だ。こうして無為の日々をすごすことが、酷く虚しい。なのに自分からはなんの行動も起こさず、こうしてふてている。
逢いたい。
バーナビーに逢いたい。
彼は今、どこで何をしている?
この半年、連絡もなければテレビや雑誌といったメディアにもバーナビーは一切登場していない。一般人となったからにはそれは当たり前だが、世間がバーナビーをほおっておくほうが難しいことを虎徹は知っている。現に、引退した虎徹へバーナビーと共に取材させてほしいという依頼もいくつか届いている。しかも必ずバーナビーを説得して欲しいという文言付で。
彼は再び殻をまとってしまったのではないか。
復讐と、ヒーローを取り上げて、バーナビーはどうするのだろう。
なのに、どれだけ心配しても虎徹は自ら連絡をとることはしない。できない。
もし、本当にバーナビーがまた閉じこもってしまったようなら助けたい。しかし再び彼に手を差し伸べることは、弱みに付け込み永遠にバーナビーを捕えることになってしまう気がしてならない。
ようやく、彼は自分の人生を歩むと決意してくれたのに。
失うことを怖れる虎徹には、過ぎた誘惑だった。手を差し出して、バーナビーが二度と離れないようにしてしまえる。彼が立ち直り、虎徹の手を離してしまうことは耐えられないだろう。
バーナビーを助けたい。それは純粋な想い。しかしそれ以降は不純。
喪失の痛みを伴いたくない。己が身の可愛さに相棒を助けに行けない自分に反吐が出る。


そんな日々にバーナビーから一通のメールが届いた。
件名もない、短い本文。読むなり虎徹は後先考えずシュテルンビルドへ向かった。
そうだ、うだうだ考えることなど、性に合わない。
たとえ選択した行動の先にさらなる孤独と喪失が待っていようとも、求められればその手をとる。
バーナビーから届いたメールにはたった一言。

『助けてください、虎徹さん』





3

一九七九年十月

帽子を目深に被った人物相手に、高級ホテルのフロントスタッフは警戒したが、名前を告げたとたんいかにもほっとした表情を見せた。
鏑木・T・虎徹。去年のサマンサ・テイラー殺害事件に端を発した一連の騒動で、ワイルドタイガーの本名はシュテルンビルド中に知れ渡った。元ヒーローの来訪に、スタッフは恭しくこうべを垂れる。
「バーナビー様のお部屋へご案内いたします」
ホテルマンを紹介されて、虎徹は絨毯に足の埋まる慣れない廊下を歩く。こちらへ来るまでの間に、虎徹は何度かバーナビーから行先変更のメールを受け取っていた。
「バニー、俺だ」
こちらのフロアです、とホテルマンと降りたエレベーターの先の扉に、虎徹は呼びかけドアホンを鳴らす。
(部屋じゃなくてフロア丸ごとかよ……)
エレベーターはVIP用特別区画からの直通だった。窓もないのでここが何階かはわからないが、最上階かほぼそれに近い階だろう。
「虎徹さん!」
「うお!?」
そんなことをぼんやり考えていたら、扉が突然開きバーナビーが抱きついてきた。中の物音はまったくしなかった。どれだけ気密性が高いのだ。
「なに驚いてるんです。気配も察知できなかったんですか?なまりりましたね」
「おまえ相手に構えてどーすんだよ」
別になまってなんぞいないと、虎徹は拗ねたように返す。
よかった、久しぶりに会ったバーナビーは変わっていなかった。お互い乱暴に、回した腕で背を叩く。
「どうぞ、中へ入ってください」
バーナビーに先導されて虎徹は玄関と呼んでも差し支えのない入口をくぐる。案内を終えたホテルマンは控えめに挨拶して退出した。
「おおっ、すっげーな!」
大理石の玄関部分を抜けると、これまた足首まで埋まりそうな絨毯の敷かれた廊下が続き、左右に扉がいくつも並ぶ。最奥の扉が開かれると、シュテルンビルドの大パノラマが広がっていた。
「口、開いてますよ。いくら僕相手だからって、そんな間抜け面晒さないでください」
「仕方ねえだろ。おまえんちより広くて窓もでかくて高いんだから」
バーナビーに逢うために、わき目もふらず大急ぎでやってきた虎徹は、久しぶりのシュテルンビルドの光景に改めて感動していた。昼なので夜景のきらぎらしい美しさはないが、人の生活の営みを感じることができる。
広告を流す飛行船、プレートを走るモノレール、三つの階層には、小さくとも人々がうごめいている。
十年以上守ってきた、街。ウロボロスとヒーローによって演出されていた仮初の守護だったとしても、やはり感慨深いものがあった。
「どうぞ」
「お、わりいな」
思いのほか長く外を眺めていたらしい。値段を聞いたら味が分からなくなりそうなコーヒーカップをバーナビーがテーブルの上に置いた。虎徹はスプリングの抜群にきいたソファに腰を下ろし、遠慮なくドリップされたコーヒーを飲む。砂糖の数もミルクの量も、バーナビーは忘れてはいなかった。
バーナビーも、虎徹の向いに腰を下ろすと一口すする。
「で、どうしたんだ急に。何カ月も音沙汰なくていきなり助けてくれだなんて」
「何カ月も音沙汰がなかったのは、虎徹さんも一緒でしょう」
ふっと皮肉気に発せられたバーナビーの言葉に胸が詰まる。
「それはその……悪かったよ」
「おや、素直に謝るなんて珍しいですね。あ、でも僕は謝りませんよ。外部との関わりをなるべく遮断する必要がありましたから」
「バニー、それどういう」
まさか、やっぱりこの一年近くずっと閉じこもって……。
虎徹は後悔した。我が身かわいさにバーナビーと距離を置いたことに、酷い罪悪感を覚える。
「あの、なにか勘違いしてません?」
眉根を寄せた男に、背年が呆れたように言った。
「僕は今までウロボロスのことを引き続き調べていたんです。あいつらにとってバーナビー・ブルックスJr.は要注意人物ですからね。一般人、しかも能力が減退したあなたに頻繁に連絡を取っていたら、あなたが危険に晒される。ええ、むしろ虎徹さんのことですから、毎日『なーなーバニーちゃん今日なんかあった? つか俺んちのキャベツが収穫されたんだけど送ろうか』とか、くだらない電話だかメールだか、してくると思ってて、それをいかにやめてもらおうか悩んだんですけどね。ぜんっぜん連絡よこさなくって、助かった反面拍子抜けですよ。僕の悩んだ時間返してください」
「それ逆恨みだろ……」
てゆーかなんで俺んちの畑にキャベツ生えてること知ってんの。突っ込めば、おや本当に生えてたんですかとバーナビーは素で驚く。なんだか急におかしくなって、虎徹は声をあげて笑った。つられて、バーナビーも同様、声を出して笑う。
バーナビーの笑顔が見れた。ほんの、たったそれだけのことなのに虎徹はなんだか泣きたくなってしまった。久しぶりに見た、バーナビーの屈託のない笑み。見ているだけで心が満たされるなんて。
「ちょっと、虎徹さん笑いすぎですよ」
目じりに浮かんだ涙を、バーナビーが目ざとくみつけて憤慨した。バーナビーはからかわれることは好きではないので、こうやって目くじらをたててきたのだろうが、事実を知ったらどうなるだろう。
(ばーか。教えてやるわけねえよ)
瞬時に打ち消して、虎徹は口元をただした。
「話戻すぞ。なにがあった」
「単刀直入に言えば、僕、狙われています」
「ウロボロスか?」
「いいえ」
狙われているのは予想通り、ウロボロスでなかったのは予想外。虎徹はバーナビーに説明をうながす。
「僕は顔と名前が出ていますから。家族は……近しい人ももういませんので、僕自身が標的になりました。最初は先々で事故が起こったり、運が悪いなと思う程度でしたが、先日爆弾がマンションに送り付けられてきました。無事解体はできたので事なきを得ましたけどね。そしてアポロンメディアに犯行予告が送られてきました。『レヴィアタン』、覚えていますか? 去年の夏頃潰した、シュテルンビルドに手を伸ばそうとしてきた組織があったでしょう」
「あー……。つまり、そこからの報復?」
「ええ。外部組織はウロボロスにとって邪魔ですからね。早々に僕らに叩き潰させた。そしてウロボロスの支配力が弱まった今、やつらは真っ先に僕に狙いを定めた」
僕を刈り取ることができれば、ウロボロスの支配力が弱まったことを世界中に知らしめることができますからね。
「きたねえな」
虎徹は心の底から嫌悪の表情を浮かべる。
バーナビーは、いうなればウロボロスの申し子だ。マーベリックの描いたシナリオで最高のショーを演じ続けた、美しい操り人形。
バーナビーが望むと望まざるにかかわらず、彼はウロボロスとヒーローTVの暗部の体現であり、彼が潰えるということはウロボロスの力がすでに及ばないことを示す。
「ええ、本当に。僕はある意味ウロボロスによって守られてきた。皮肉ですよね。他の犯罪組織から街を守るために、ウロボロスの権威をまずは守らなければならないなんて。しかも、それは僕自身の身を守ることと直結している。ウロボロスはこの街と表裏一体です。ここ数カ月調べて、僕はその強大さと巧妙さに震えましたよ。僕はウロボロスを滅ぼしたい。しかしウロボロスが消えた穴は……また別の犯罪組織が埋めるでしょう」
「考えすぎるな、バニー。まずはレヴィアタンを退ける、おまえを守ることが先決だ」
腿の上に肘を乗せ、両手を祈るように組んでいたバーナビーは、その手に額をすりつけて悲痛にうめいた。虎徹は立ち上がると、そっとバーナビーの肩に手を置く。
「そう、ですね。すみません。とにかく宣戦布告されたからには受けて立つということで、司法局とアポロンメディアに協力していただくことになったんです」
「えっ、そうなの」
虎徹は、てっきりバーナビーは一人で抱え込んで、でもどうしようもなくなって自分に助けを求めてきたと思っていた。それだけにひどく肩すかしをくらった。
え、なにそれ俺ってじゃあなんのためにここに来たの?
「現在、身元が割れているヒーロー、元ですけれど、それは僕と、虎徹さんあなただけだ。僕のバディであったあなたにも危険が及ぶと考え、ここに来てもらいました」
「っ、な、俺に、って」
虎徹は一気に血の気が引いた。自分に危害が及ぶことに対してではない。母と兄と、そして娘にまで危険に晒されるかもしれないからだ。
「落ち着いてください。だから僕はあえて情報を流すことにしました。レヴィアタンが虎徹さんの家族に行きつく前に、シュテルンビルドにワイルドタイガーとバーナビー、両元ヒーローがいると」
これで真っ先に僕らが狙われますから、安心してください。
バーナビーはさらっと恐ろしいことを言ったが、これくらいの危険日常茶飯事だ。
虎徹はほっとして、大げさに肩を落とす。
「なんだ、そうだったのか。って、最初からそう言ってくれよ。すっげえ心配したじゃねえか」
「ええ、心配してください。別に、全然まったく一年近くも連絡よこさなかったこと、僕から連絡させたことなんて、これっぽっちもみじんこも! 気にしてませんから」
バーナビーは言った。見るものが震えあがるような、極上の笑顔でだ。虎徹は戦慄した。
(やばい。バニーちゃん怒ってる。超超超めちゃくちゃ弩級に怒ってる)
「ごめんなさい。俺が悪かったです」
今にも土下座せんばかりの勢いで、虎徹は腰を折り頭を下げた。
「はあ、そうですか。虎徹さん謝ってすむと思ったんですか、その程度ですか。ショックですね」
「な、なんでも言うこと聞くから!」
頭上に降り注いだバーナビーの冷たい声に、思わず虎徹はそう言ってしまっていた。気付いて面をあげると、そこには酷く凶悪な笑みを浮かべる元KOH。こんな顔、とても視聴者には見せられない。
「言いましたね。その言葉、忘れませんよ」
ひとまずはバーナビーの機嫌が直ったことに感謝しつつ、虎徹は新しい危機に陥ったことをそっと心の中で嘆いた。
「さて、事情を説明したところで、今後のことについてご相談なんですけれども」
バーナビーは足をくむとソファにふんぞり返った。もうどこをどうひっくり返せもしない。バーナビーの天下だ。
「虎徹さん、今能力どれくらいききますか?」
「最近発動してないから正確な数字はわからねえけど、だいたい一分ってとこだ」
「……思ったより短いですね」
虎徹の能力発動時間を聞いて、バーナビーは瞠目する。無理もないだろう。去年あのアンドロイドと戦ったときは、まだギリギリ三分持っていた。
「んー、でもな。なんつーか下げ止まったつうの? 一分は切らないみてえなんだ」
「そうですか。わかりました。大丈夫です、一分もあれば上等ですよ」
そうでしょう、ワイルドタイガー?
バーナビーに挑発的に見つめられて、虎徹は鼻で笑うともちろんだと答える。
「で、レヴィアタンどうにかするって……司法局とアポロンメディアに協力してもらって、具体的になにするんだ」
男の疑問に、青年はよくぞ聞いてくれたと最高のイタズラを思いついた子供のように、碧い瞳を光らせて答えた。
「僕の、誕生日パーティーですよ」



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