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同人誌見本
TIGER & BUNNY > 兎虎 >
あたしの相棒にヒーロー辞めるってったら「虎徹さん愛してます、結婚して下さい」ってプロポーズされた。
(2011/11/20)
あたしの〜シリーズ完結編。タイトル通り大団円。今までよりはラブ度が高めです。前半若干バニーちゃん病み気味ですがいつものことだった! 今までバニーをどう想っていたのか虎徹側の心情もあります。
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じゃあ、俺が裏切ったら虎徹さん、あなたどうするんだ。

ワイルドタイガーとバーナビーはバディだ。
二人は相棒を信用し信頼し背中を預けた一蓮托生、二人で一人、別ち難く離れることは出来ないと誰もが認識している。
彼等の仲はとても親密であり、男女であるがため付き合っていないというほうが、むしろおかしいくらいだ。実際、下世話な記者がときどきそういった質問を投げかけてくることがあるが、ワイルドタイガーもバーナビーも清々しいほどきっぱりと否定する。
『あたし達は/僕達は、バディです』
いっそこちらが赤面するほどワイルドタイガーとバーナビーは仲睦ましい。なのにお互い恋愛感情は持ち合わせていないという。
恋愛感情ではなくそれよりももっと大きい感情。ただ相手が大好きで、二人でヒーローをしていたい。そんな気持ちでいるのだと――。
(思っているのは、虎徹さんだけだ)
バーナビーは大きく嘆息して、自室の大型モニタの電源を落とした。
録画したワイルドタイガー&バーナビー特集のヒーローTVを見終わり、バーナビーは酷く苛立っていた。いや、心がかきむしられるような感覚でいえば苛立つに近いが、切なく締め付けられるようでもある。我ながら感傷的な表現だが、とにかく、そう、苦しい。
自分は徹底して虎徹に対し『僕はあなたのバディです』と言い続けてきた。キスとセックスはしない他は、まるで恋人のような態度でバーナビーは虎徹に接してきた。手をつないで買い物をしたり、一緒にお風呂に入ったり、ベッドで眠ったりもできる……いや、これは恋人なんかじゃあない。
(小さな子供と、その母親だ)
確かに、虎徹と始終一緒にいられることは嬉しい。だが一緒にいればいるほど、バーナビーのほの暗い欲望の炎が燃え上がる。
もう、頭の中で何度虎徹を犯したか知らない。
『あっ…はんっ、あっアア!』
『っや、ぁ…だめッ……ばにーちゃ…』
『……も、ぃく、いちゃ…ああんッ』
虎徹の顔を見るたびに、十カ月前に抱いた淫らな表情と嬌声が蘇る。気が狂いそうだ。
いっそ、あれは幻だったのではないかと。そう思えればどんなに楽だろう。あそこで虎徹を抱いていなければ、まだチャンスはあったのではないかと。彼女を手に入れたいがために、目先の欲に焦ってしまったことを、酷く後悔する。
虎徹のことだ、おそらく今でもバーナビーの求めを拒否はすまい。だが、所詮は躰だけの関係だ。
(僕は、あなたの心ごと欲しいんだ、虎徹さん)
抱くまでは、躯だけでいいと思っていた。
抱いてからは、心も欲しかったのだと気づいた。
なにが『躰だけでいい』だ。そんなの、彼女を手に入れる自信がない言い訳じゃないか。彼女の心を亡くなった夫から奪う気概もないくせに、彼女が人のものであったということに傷ついた、幼稚な嫉妬心に苛立っていた。
なんて愚かなバーナビー・ブルックスJr.!
今更気づいたって遅い。彼女は、もうこちらを恋愛対象外にしか見ていない。なにより、自分自身が彼女との関係の変化を恐れている。
屈託ない笑顔で「バニーちゃん」と呼ばれる歓びは何にも替え難かった。
――いっそ、狂ってもいいかもしれない。

§   §   §

「あ、バニーちゃんオハヨ。ね、今日の撮影また水着ってマジ? もういい加減秋だってのに、懲りないよね〜」
出勤してきた虎徹がチェアに座りながら挨拶をしてきた。
「おはようございます、虎徹さん。仕方ないでしょう、仕事は仕事です。それに僕、嫌いじゃないですよ」
虎徹さんの水着姿。
言って、バーナビーはにこやかに隣の虎徹を見た。
「やっだー、もうバニーちゃんてば! おばさんになに言ってんの」
見苦しくない程度には鍛えている自覚はあるが、やはり同じ体型なら若くて可愛いグラビアアイドルのほうが、よっぽどいいではないか。
虎徹はいつも、そう言ってバーナビーの意見を1笑に付する。
「そりゃあね、あたしもKOQだったときは、すごかったよお? ま、あんまオファー受けなかったけどね。旦那いたし。それに今は、そういうことにはブルーローズがいるじゃん。結局あたしはバニーちゃんのオマケなんだって。ちゃんとわかってる」
わかってないのは虎徹さんのほうだ!
荒げそうになった言葉を、ぐっと飲み込む。
「そんなこと。僕達二人でコンビの、ヒーローじゃありませんか」
「ふふ、ありがとうね」
虎徹はくすぐったそうに笑うと、PCに視線を戻した。会話はこれで終わりだ。
その、笑顔が愛おしい。思わず抱きしめてしまいたくなってしまう。と、同時に無知に憤った。グラビアアイドルのほうがいい? バーナビーのオマケ? 馬鹿なことを。それこそ一笑に付してやりたい。
あなたがどれほど魅力的な人間か!
顔出しのバーナビーとコンビになって、ワイルドタイガーのスーツ無しの露出が増えてからというもの、彼女の人気は二次関数並に膨れ上がった。
屈託のない、親しみやすい笑顔。無条件に差し伸べる手。鍛え抜かれた豊満な肉体。正義馬鹿で単純そうなところも男心をそそるのだろう。
(僕が一体、あなたを性的に見る男共をどれほど牽制してきたか知らないだろう)
女性誌にバーナビーと虎徹の水着姿が載っても、男性誌に載ることはない。だから勘違いをしているのかもしれない。実のところ、ワイルドタイガー単体での男性向グラビアオファーは、毎日腐るほど届いているのだ。そしてその全てをロイズがはじいている。ブルーローズと違いワイルドタイガーでは、虎徹では強力過ぎてセクシャルアピールをアイドルというプロモーションで包み隠すことが出来ないのだ。
彼女は自身を客観的に判断しているが――自身のプロポーションの良さは知っている――、しているだけでそれがどんなふうに周囲に受け取られているかなんて、まったく考えていない(もしかしたら、彼女のヒーロー像に相応しくないため、無自覚に考えないようにしているだけかもしれないが)。
『はあ? だって見ればわかるじゃん、あたしのカードはあんたみたいに馬鹿売れしてないし。……前よりはマシだけど』
一度だけ、あなたも人気のヒーローなんですもうちょっと自覚、というか自重してくださいだか、言ってしまったことがあったとき、虎徹にそう返されたことがある。
当たり前だ、ヒーロースーツはワイルドタイガーの生身ではない。他のグッズ展開も、ワイルドタイガーはスーツのみだ。虎徹の水着姿の載った女性誌を男性がこぞって買っていくことなど、知らないのだろう。ちょっと工夫して検索すれば、匿名掲示板やSNSでワイルドタイガーへ卑猥な妄想を抱いている男共の、欲望に満ち満ちた言葉が溢れている。
(ああもう、ほんっとこの無自覚お色気鈍感未亡人が!)
バーナビーは頭を抱えた。一日最低三回は、虎徹をこうして罵っている気がする。
「バ、バニーちゃんどうしたの?」
すると、唐突に頭を抱えたバーナビーへ、虎徹が心配そうに声をかけてきた。しまった。うっかり虎徹の前で無様な姿をさらしてしまうなんて。
バーナビーはすぐさま心配ないと笑いかける。
「いえ、確か今日オープンだったベーグル屋で昼食を買おうと思ってたんですが、それを忘れて出勤してきたことを思い出しただけです」
「あっはは、バニーちゃんでもそんなかわいいミスするんだあ。いいじゃん、いつもみたく一緒に食堂行こ」
虎徹が笑いかける。幸せ。幸せ。苦しい。幸せ。苦しい。
苦しい。苦しい苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
胸が引き裂かれそうになりながら、笑顔でもって返す。
「はい、ぜひ」
それでも、笑わなきゃ。好きだから、笑わなきゃ。心配かけたくないから、笑わなきゃ。あなたの笑顔が見たいから、笑わなきゃ。
なのに、笑ったのに、あなたの表情から笑顔が消えてしまった。
「……ねえ、バニーちゃん。本当に大丈夫?」
「――え、」
ぎくり、と、して、心臓が跳ねあがる。ああ、そうだった。このひとは嘘笑いに敏感だったんだ。
どうしよう。どうしよう。どうしようどうしよう。
嬉しい。
わかってくれて、嬉しい。
憎い。
それなのに肝心のことはわかってくれなくて、憎い。
「ちゃんと、あたしを頼ってね、相談してね。最近苦しそうだよ。やっぱりご両親の研究のことが、」
「ありがとうございます、ええ、そうなんです。まさかあんな形でアンドロイドが開発されていたなんて。でも、これは僕の心の問題だ。悩んだって……始まらない」
「バニーちゃん……」
虎徹はきゅっと表情を辛そうに歪めた。
どうして。あなたはそう自分のことのように胸を痛める必要はないのに。でも、それが嬉しい。
バーナビーは、ふっと唇を緩ませる。今度の笑みは、心からだ。虎徹は気付かない。
「ありがとうございます、虎徹さん。あなたにそうやって、想ってもらえるだけでも僕は少し気が楽になる。そうだ、今晩うちに来てくださいませんか」
「えええ、またあ? 三日前行ったばっかりじゃない」
言葉とは裏腹に、虎徹はまんざらでもなさそうに言う。
「本当は毎日だって来てもらいたいくらいなんですけど」
「そうやって夕食と朝食の面倒全部押し付ける魂胆? ずるい子」
虎徹はにっと口角を上げて、こちらへ腕を伸ばす。彼女が次にとる行動は予測できた。しかしバーナビーは逃げなかった。女の深爪気味の指が、青年の整った鼻梁を緩くつねる。
「あ、ばれちゃいましたか」
鼻声でバーナビーが降参すると、虎徹はけらけらと笑いながら指を引っ込めた。
虎徹に触れられた箇所が、熱を持つ。胸が高鳴る。赤面してしまってはいないだろうか。幸福と不安がぐるぐると頭をまわる。
「仕方ないなあ。行ってあげる。夕食なにがいい?」
「ロールキャベツで」
「おっけー、とびきり美味しいのつくったける」
「期待してますよ」
バーナビーのマンションは、料理などオーダーすれば専属のシェフがついているのですぐにでてくる。だがそんな野暮なことは言わない。お互いわかっていて、やりとりを楽しんでいるに過ぎない。
「おっほん」
そのとき、二人の前のデスクからこれ見よがしな咳が聞こえてきた。しまった、ついもう一人の存在を忘れてしまっていた。虎徹とバーナビーはバツが悪そうに仕事に戻る。
二人の世界に入りすぎると、こうしてときどき同室である経理の女史に仕事をしろと注意される。さいわい、女史はロイズには言っていないようだが、あまり過ぎれば報告が行くだろう。気をつけなければ。
こうしてずっと、虎徹とヒーローをしていたい。
ささいで、くだらなくて、けど幸せな。バーナビーに、それを崩す勇気などなかった。

――両親殺しの犯人が、ジェイク・マルチネスではないと、知るまでは。





例えるならば、復讐だけしか考えて生きてこなかった僕に、あなたは彩りを与えてくれた。
そこで初めて、今までモノクロの世界にいたことがやっとわかった。
カラーの世界は美しい。
美しすぎて、苦しい。
あなたが好きすぎて苦しい。
そこに、またモノクロが来た。ぐちゃぐちゃに混ざる世界。
汚れてしまう。美しい、あなたが。
虎徹さん。
わからないんです。記憶が、
どうして、あなたが僕の両親を撃ってる
僕も
  炎に包まれて
記憶が    焼ける
   どうして    僕 が、

「――ッ!!!!」
バーナビーは声にならない悲鳴をあげた。
夢と現実が混ざる。ぐしゃぐしゃの視界。ちらつく炎の影。
「バニーッ」
すると、温もりが体を覆い、急速に現実感が戻る。
自分の家の、ベッドだ。クリームの入院していた病院から一緒に帰って、それで、虎徹と一緒に眠って。
「虎徹、さん」
抱きしめてくれた、その背に青年も手を回そうとした。
「大丈夫……じゃないよね、とってもうなされてた」
すごい汗。
そう言って、タオルをとりに行こうとした虎徹をバーナビーは止めた。
「ちょ、バニーちゃん苦しい」
「汗臭いかもしれませんけど、しばらくこのままで」
「……うん。でもちゃんと後で拭きなさい。臭いとかじゃなくて、風邪引いちゃう」
「はい」
ちらりと時計を見れば、まだ四時前だった。夜明けすら遠い。五分ほど女の体温を堪能してから、バーナビーはようやく相手を解放する。
「すいません、落ち着きました」
「いっそもう一回シャワー浴びてくる?」
「そうします」
ずるずるとだるい体を引きずって、シャワールームへ。熱い湯を浴びると、少しだけ頭がすっきりしてきた。
虎徹が、自分が犯人のわけがない。二十年前の出来事に、今の姿かたちのままのはずがない。
だが、つまりそれは今まで抱いていた記憶そのもの、全てが嘘であるかもしれないということでもある。
最悪の気分だった。傍に虎徹がいなければどうにかなっていたに違いない。
彼女がいるだけで、自分はこんなにも、ほら、まだ、大丈夫だ。大丈夫。大丈夫なんだ。
「おかえり、はい」
「ありがとうございます」
寝室へ戻ると、虎徹から冷蔵庫から取り出してきたペリエを渡された。虎徹にとっては、もう勝手知ったる相方の家といったところか。別に、気にくわないわけではない。
「ね、明日、っていうか今日さ、その二十年前のバニーちゃんの軌跡、たどってみない?」
「え?」
「バニーちゃんのご両親が殺害される前までの、バニーちゃんが行った場所とか、やったこと、私達で再現するの」
そうしたら、記憶、ちゃんとするかもしれない。
虎徹の提案に、バーナビーははっと息をつめる。
「そしたらなんかの拍子に、犯人の顔思い出すかもしれないじゃない。どう? もちろん、ツラいんならやめ」
「いえ、やります」
「ん。そか。じゃあもう寝よう、ね?」
言い終わるのを待たず了承したバーナビーへ、虎徹は包み込むように微笑む。瓶は床へ、差し伸べてきた手をとり、バーナビーは横になる。正直、眠るといってもあのときの夢を見るばかりで、きちんと眠れた気がしない。まったく心が休まらない。それでも彼女に抱きしめられていると、眠れる気がしてくるから不思議だ。
「虎徹さん」
まだ空いている片手をねだる青年に、女はしかたがないと苦笑してその身を預ける。すっぽりと、虎徹の体はバーナビーに抱きしめられた。
「僕の匂いがする……」
「だって、バニーちゃんてば汗ふかないで抱きしめるんだもん。文句言わないの」
「虎徹さんも……一緒にシャワーを、浴びさせるべき……でした」
「そんなに気になる?」
「いえ」
むしろ、嬉しい。
「なら、寝なさい。さっきからバニーちゃんの声、すっごいおねむだよ」
「……じゃあ、キスを」
「うん?」
「おやすみの……キスを」
「……おやすみ、バニーちゃん」
抱きしめられているから、唇まで届かないことの言い訳も必要ないから、躊躇なく了解した? だからって、鎖骨の間というのも卑怯だ。
心の中で文句を言って、バーナビーは浅い眠りについた。
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