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2011/05/06
【R18】Tooth brushing
SCC20で突発発行した歯磨き本。
[ 初出:2011/05/03 コピ 16P 無配 ]
 それは、楓の作ってくれたホットケーキをほお張り、文字通り幸せを噛みしめたときだった。
「うぐっ」
 虎徹の歯に激痛が走った。
「お父さん、どうしたの。もしかしておいしくなかった?」
 不安げに父親の顔を見る楓に、虎徹はぶんぶんと大きく手と首を振る。
「うううううん、まさか! 楓の作ってくれたホットケーキ、すっごくうまいって。パパほっぺたが落っこちちゃいそうだ」
「ほんと!? よかったぁ」
 ほっと笑顔を咲かせた娘に、こちらまで嬉しくなってくる。
 しかし、楓はすぐにまた不安げな表情に戻った。ならば、どうして顔をしかめ悲鳴をあげたのか。
「あ〜、実はパパ。ちょっと歯が痛いみたいでな」
 メープルシロップがしみてしまったのだと、親である手前バツが悪そうに虎徹は頭をかいた。
「え〜、もうお父さんったら。私には『ちゃんと歯磨きしろ!』って言ってるくせにー」
「いやいやいや、ちゃんとしてるよ毎日!」
 ぷくりとほおを膨らませた楓に慌てて弁解するが、言い訳にしか聞こえない。
「とにかく、はやく歯医者さんへ行って治してね」
「わかった、はやく治すよ。それで楓の作ってくれたの、た〜くさん食べるからな。あ、もちろん今日のホットケーキも食べるぞ」
 痛くないほうで噛むからという父親に、楓はあんまり無理しないでね、と再び笑顔になった。



「はぁ〜」
「なんですかこれみよがしに」
 アポロンメディアの更衣室でついた、深い深いため息をちょうど入室してきたやっかいな相棒、バーナビーに聞かれてしまった。
「べ、別におまえに聞こえるようにわざとため息ついたわけじゃねえぞ。たまたま入ってきたタイミングと合っただけだっつの」
 しかし青年にまた見苦しい言い逃れをという目で見られ、男はさらに言った。
「だから、ほんとだってば。歯が痛いんだよ歯が! そんでため息ついたの」
 すると、今度はバーナビーが大きく嘆息した。
「これみよがしはどっちだよ」
「まったく、ヒーローが虫歯なんて情けないと思わないんですか」
 虎徹の発言は無視して、バーナビーが苦言をていする。いちいち神経を逆なでする物言いに、男は声を荒げた。
「だから、俺はちゃんと歯ぁ磨いてるって! それでなっちまったもんはしょうがねえだろ」
「正しい方法で磨かなければ意味がありません。今日退社したらそちらの家へ行きますから」
 きちんとした歯磨きの方法を教えて差し上げます。
 バーナビーの意外な申し出に虎徹はぽかんと口を開けた。青年はむっとする。
「なんですか」
「いや、おまえがそんなこと言うなんて、思わなかったから」
「出動中に集中できなくなるようなら、ますます邪魔ですから」
 虎徹は一瞬でも感謝したことを後悔した。やっぱりバーナビーはバーナビーだ。
「ったく、もう少し愁傷なことは言えねーのかよ。そしたら夕食ぐらい作ってやるってのに」
「あ、ではお願いします」
「あのな!」
 あくまでもバーナビーが心配するような言葉をかけたらが前提であるのに、青年は悪びれもなく夕食をせびった。
「考えてみれば食事をしてからのほうが効率がいいですからね」
 歯の磨きかたを教えるんですから、とバーナビーはもうしっかり夕食を食べる気である。
「あーもーったく、しょうがねえな。授業代だと思って作ってやるよ」
「ありがとうございます」
 珍しく素直に礼を言い笑顔を見せた青年に、男は複雑な心境になった。
 バーナビーは普段虎徹を敬うとかいうことを聞くとか、新人としての気持ちはまったくない。とにかくしおらしいのは言葉使いだけで言葉の内容も態度も辛辣だ。だが、ごくごくたまにこういうことを平気で言う。
 さらにわけのわからないことには、バーナビーは時々虎徹の躯を求めて強引に押し倒すことがある。初めこそ抵抗したものの、襲っている側だというのにバーナビーがあまりにももろく、つき放したら壊れてしまうように思えて許してしまった。
 躯を重ねるようになっても、普段の彼の態度は以前と変わらないのでますます複雑怪奇だ。
 バーナビーは礼を言い終わると、荷物を持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
「今晩なに作ろう」
 彼に食事を作ってやることが初めてであることに気づき、虎徹は頭を抱えた。バーナビーのことだ、へたなものを食べさせたらねちねちねちねち文句を言うに決まっている。別に料理はへたではないが、うまいわけでもない。
 無難にいこう、無難に。美味しくしようと変に慣れない料理を作っても失敗するだけだ。
 虎徹は肉じゃがを作ることにした。


 バーナビーの箸がもくもくと料理を持ち主の口へ運んでいた。部屋に上がりこんだときの「おじゃまします」と、食事の前の「いただきます」しか、彼はしゃべっていない。
 バーナビーが到着したときには、すでに食事の用意ができていたので、別段おかしくはないがそれでも味について反応してくれないのは、それはそれで怖い。
(こいつ、ばくばく食べるくせに平気で食後に「不味かったです」とか言いそうだもんな。なんも言わないで食べてるからって油断できん)
 我ながらそれなりにうまく作れたつもりではあるが、自分から「うまかったか」なんて聞くのもしゃくなので、虎徹もなにも言わずただ目の前の料理を胃に収めていく。おかげで部屋は二人の食事をする音しか聞こえない。
「ごちそうさまでした」
 十数分して、箸をそっと置ききちんと手を合わせたバーナビーに、虎徹はなんともいえない表情をした。茶碗に米粒一つ残っていない。むしろおかわりをされて、肉じゃがもからっぽだ。うまかったと感じてもらえたと判断していいのだろうか。
「なんですか」
「あ、いや、その、そういえば箸、使えるんだなって」
「当然です。まあ普段使っているわけではないですから、あなたほどではないですけど」
 ごまかせたことにほっとしつつも、バーナビーの言い方は虎徹の箸の使い方が自分よりうまいと言っていることに気づき、どう反応していいか悩む。
「ところで、この肉とジャガイモの煮物はなんて名前なんですか」
「肉じゃがだけど」
「そのままですね。ともあれ、美味しかったです。初めて食べました」
「そ、そうかそれはよかった」
 あまりに普通に褒められて、虎徹は逆に嬉しさより怖さがたった。バーナビーに褒められたことなど、初めてではないだろうか。でも無表情で褒めるのはやめてほしい。
「では、ようやく本題に入るとしますか」
「その前に皿洗いたいんだけど」
「わかりました」
 あいかわらず読めない表情のまま淡々と事を運ぶ後輩に、虎徹は待ったをかけた。素直に言うことを聞くバーナビー、うん、やっぱり怖い。手伝うと言ってきたが、お客さんだからと断った。本音はちょっと一人になりたいだけだったが、まさかそんなこと言うわけにもいかない。
 どうも、部屋で二人きりになるのが嫌というか、腰が引けると言うか、気が進まない。
(や、まぁ、あんなことされりゃなぁ、っと)
 強引に抱かれたことを思い出して、皿が滑り落ちそうになってしまった。派手な音を立てたら、バーナビーが駆けつけてくるに決まっている。きちんと受け止められてよかったと心中で胸を撫で下ろした。
 とにかく、今この時間で冷静になれ。なんにも怖いことなんかない。歯を磨くだけじゃないか。
(なのに、なんでこんな不安なんだ)
 洗い物は無慈悲で、すべての食器を洗い終わっても虎徹の気持ちは不安定のままだった。

「それじゃあ、とりあえず、まずいつも先輩がどんなふうに歯を磨いてるか見せてください」
「つか考えたんだけど、そこまで歯磨きこだわるのっておかしくないか。歯医者で治療すればいいだけの話だし」
 この期に及んで気乗りのしない虎徹の態度に、やっとバーナビーの表情が動いた。いつもの、怒っている顔だ。
「それは、風邪は治るから予防しなくていいと言っていることと一緒ですよ」
「うぅ」
 彼の言うことはもっともだ。反論できない。が、それでも虎徹は食い下がることにした。
「見せるのは、無理」
「は?」
 なに言ってんだこのおじさん。バーナビーの顔にそうくっきり浮かんでいる。彼の苛立ちが手に取るようにわかるが、だからといってここで引くわけにはいかない。
「だって俺、風呂で歯を磨くタイプなんだよ。だから、無理、見せるのとかできないし」
「なるほど」
 あっさり納得してくれたことに驚きつつも、虎徹はほっとした。のもつかの間、
「なんて、僕が言うとでも思ったんですか。まったく、そんなふうにながら歯磨きなんかしてるから虫歯になるんです。どうせだらだら長く歯ブラシをくわえてるだけで磨いた気持ちになっているんでしょう。洗面所はどこですか、連れて行ってください」
 有無を言わさない迫力に、虎徹はたたらを踏んだ。これ以上抵抗してもさらに叱られて最終的にバーナビーの言うとおりにしなくてはならなくなるだけだ。
(とほほ)
 虎徹は諦めた。しょぼしょぼとリビングを出て、青年を洗面所まで連れて行く。
「風呂場から歯ブラシ持ってくるから」
 一言断って、隣の風呂場から目的のものを取って戻る。
「見せてください」
「歯ブラシを?」
「そうです」
 虎徹は素直に歯ブラシを渡した。毛先を観察するバーナビーの表情が険しくなる。
「本当に、ここまで予想通りとは。いいですか、もうこれは毛先が広がっていて新しいのに替えないといけません。替えの歯ブラシはどこですか」
「洗面台の下」
「すぐに出してください」
「へいへい……」
 せっかく持ってきた歯ブラシはゴミ箱に捨てられてしまった。虎徹は新しい歯ブラシを出すと、水で洗う。
「あ、どんなふうに磨いてるのかはもういいです。僕が直接指導します」
 歯ブラシをよこせと手を差し出され、虎徹はしぶしぶ渡す。
「まず歯磨き粉はつけすぎてはいけません。はい、口を開けて」
「ちょ、おまえが磨くのかよ!?」
「なにを驚いているんですか、当たり前でしょう。口で言ってもあなたは聞かないんですから」
 直接体に叩き込みます。
 光る眼鏡を押し上げると、バーナビーが一歩引いた虎徹の顎を鷲掴んだ。
「うごっ」
「ほら、なにやってるんですか。早く口を開いてください」
(この野郎……ッ)
 睨んでもバナビーは強固な態度を崩さない。これはもう、さっさと口開けて、さっさと磨いてもらって、さっさと帰ってもらうに限る。
「あがっ」
 口を開いた瞬間、無遠慮に歯ブラシが侵入してきた。
「奥歯はもちろんですが、前歯の横も磨くとき切り替えしがあるので磨き残すことが多い箇所です」
 顎を掴んだ手を離さないまま、バーナビーが歯ブラシを動かした。意外なことに、手つきは荒々しいが、磨き方は繊細で痛くはない。
「歯の表面より、歯と歯、歯茎との間の汚れを落とすように意識してください」
 いや、むしろこそばゆい。
「ちょっと、聞いてるんですか」
「聞いふぇる聞いふぇる」
 そう答えたものの、意識してしまったが最後、なかなか感覚を散らせない。歯ブラシの毛先が粘膜を丁寧にこすり、まるで隙間をくすぐるように動くのだ。
「う、ぐぅ」
 歯磨き粉を使っているため、唾が飲み込めない。意識しての鼻呼吸は、勝手が違って息苦しい。
「ふぁにーちゃん、ひょっと」
 ちょっと待ってくれ、そう言おうとしてうっかり口の端から唾液と歯磨き粉の混ざった白い液体がとろりと溢れてしまった。
「っ、」
「わ、わりゅい」
 バーナビーが慌てて手を引っ込める。虎徹は急いで洗面台に液を吐き出した。
「いえ、こちらこそ気が回らずすみませんでした」
 てっきり「なにするんですか汚いですね」ぐらい言われると思っていたので、謝罪されて虎徹は驚く。
「はい、じゃあもう一度口を開けてください」
「えー、まだするの……うっ、ごめんなさい」
 じろりとバーナビーに睨まれて、虎徹は再び口を開いた。顎はさっきより掴む力は弱いが、しっかり固定されてしまった。
 苦しくてなんか涙まででてくるし、鼻息荒いし、人に磨いてもらうのはくすぐったいので、もうやめて欲しかったのだが、彼にそんなわがままが通じるとは思えない(わがままだとは思っていないが、バーナビーからすれば「わがまま」だ)。
「歯だけでなく、舌も磨いて下さいね」
「む…っ、んぅ」
 前触れもなく無防備な部分を磨かれて、思わず鼻にかかった声が出てしまう。気まずさと恥ずかしさに顔を赤らめると、明らかにバーナビーの機嫌が急降下したのが雰囲気でわかった。
「真面目にやってください」
「ふぁじめにやっふぇるふぉ!」
 そっちの磨き方がやらしいからこんなことになるんだろうと、どんなに叫びたいか、とにかく自分のせいではない。全部バーナビーが悪い。悪いったら悪い。
 しばし睨みあうが、バーナビーが先に折れた。
「……歯の裏側は磨きにくいですが、だからといって手を抜かないように」
 歯の裏だけでなく、歯茎の粘膜にもブラシの先が当たった。虎徹の弱い箇所だ。いつもここを舌で舐められると力が抜けてしまう。
「う、ふぁ…」
 案の定、歯ブラシでも同じように反応してしまった。ぞくりとした感触が腰を抜ける。ああ、またバーナビーに怒られる。そう思って肩を縮めたが、怒声はよこされなかった。代わりにブラシがさらにそこを攻める。
「んん、ぐ…ぅあ、ぁ、」
 舌とはまた違う無機質な感触が粘膜を的確に刺激する。立っているのがつらい。虎徹は思わずバーナビーにすがった。青年はその手を払うわけでもなく、無表情でただ虎徹の口を蹂躙する。ブラシで舌を絡めたかと思えば、じらすように表側の歯と歯茎の間を撫でた。
 再び飲み込めなかった唾液と歯磨き粉の白い液が口の端を伝う。その感覚すら快感に変換された。
「ふッ、あ…んぅ」
 バーナビーは手が汚れることに頓着せず、虎徹の咥内を執拗に愛撫する。
「ふぁにー、も…やぁ…」
 このままではいけない。虎徹は拒否の言葉をなんとか絞りだす。だが、バーナビーはまったく聞く気がなかった。それどころか、さらに歯を磨くこととは関係ないところまでブラシを当て始める。
「んぐ…っふ、う、ぅ」
 頬に濡れた熱い感触がした。泣いているのだと気づいて、虎徹は情けない気持ちでいっぱいになった。こんな、たかだか歯を磨かれたくらいで喘いで、なんて自分はどうしょうもない人間なのだろう。
 すると、まるでこちらの気持ちを見透かしたようにバーナビーが見下して言った。
「本当に、あなたはいやらしいひとですね。僕は歯を磨こうとしただけですよ。なのに感じて、ここもこんなにして。恥ずかしくないんですか」
「っ、」
 顎を掴んでいた白濁まみれの手が、虎徹の盛り上がった股間を撫でた。
「ひっ」
 はじめて性器に直接的な刺激を加えられて、とうとう虎徹は自力で立っていられなくなり、体が傾ぐ。それを乱暴にバーナビーが支えた。
「いいでしょう、あなたがその気ならこちらも遠慮はしません」
「ちが…俺は…ッア」
 ズボンの上からペニスを握られて、虎徹は言葉を詰まらせた。唾液と歯磨き粉でどろどろになった顎回りを掃除するようにバーナビーが舌を這わせる。
「ふ…っん」
 そのまま首筋を伝い、シャツのボタンを外され胸を露出させられた。攻めにくいと思ったのか、バーナビーは虎徹を抱えて床に寝かせる。広くない洗面所の固い床と、見上げた先のバーナビーで、虎徹の気持ちはいっぱいいっぱいだった。
 どうしてこんなことに。
 後悔するが、そもそもどこで間違ったのかがわからない。いや、バーナビーがあんなふうに淫らに歯を磨くのが悪いのだ。いやらしいのはどっちだと叫びたいが、今口から出るのは嬌声だけだった。
「んぁ、あ…っあ」
 舌先でを押しつぶされこねくりまわされて立ち上がった乳頭を甘噛みされる。ベルトを外される金属音が不快だ。そうしてあれよというまに全裸にされて、自宅の洗面所でありえないことになってしまっていた。
 泣きたい。もう泣いてるけど。
「そうだ、いいことを思いつきましたよ」
 バーナビーは背筋が凍るような笑顔を浮かべた。うそだ、絶対脱がしてる最中かそれ以前から考えていたに違いない。歯ブラシを握ったバーナビーの嬉しそうな表情ときたらない。
「や、やめ――ひぁッ」
 悪い予想は当たるもので、虎徹の雄にバーナビーは歯ブラシを当てた。
「ぃや、だ…やめ、んひぃ……ッ」
 亀頭をこすられて、虎徹はあられもなく喘いだ。口や手でされてきたのとはまったく違う感触に攻め立てられて、びくびくと背が反る。
「なにが嫌なんですか、しっかり感じてるじゃないですか。本当、歯ブラシでこんなに乱れるなんて先輩は淫乱ですね」
「ひぅ、ぐ、ぁ…アア」
 カリ首や皮膚の隙間をこそぐように動かされて、じれったい。だからといって、はしたなくねだるような行為は絶対にしたくない。
「今度はこっちを使ってみましょうか」
 膨張しきった肉根から歯ブラシを離すと、今度はその細い柄を舐め、バーナビーは男の脚を抱えると暗紫色のすぼまりに柄をねじ込んだ。
「あぐっ」
 指よりも華奢なそれは、ゆっくりであるが確実に抵抗を受けることなくうずまっていく。
「あ、あ……」
 がたがたと震える虎徹の躯を押さえつけ、青年はブラシ付近まで埋まったそれを一気に引き抜いた。
「はひっ」
 そして再び柄を潜らせる。その動作には容赦がなく、虎徹の上げる制止の声もきかずぬちぬちと艶めかしい音を立てて挿入を繰り返す。
「や、ゃめ…ッア、ぃゃ…ひんっ、ァアア」
「ほら、あなたの大好きな歯ブラシですよ。気持ちいいでしょう。よかったですね」
 違うのだと首を振っても、バーナビーの手は緩まない。細いのに無機質な感触が未体験という刺激で虎徹の官能を揺さぶった。
「うぁっ、く、ぅっ、あ、ああ…や…ゃだ」
 さっきから人の肌ではないものに煽られて、それなのに感じてしまって、虎徹は激しい嫌悪を覚えた。バーナビーの怒りも拍車をかけている。自分は悪いことなどしていないのに、どうしてこんな目に合わなければいけないのか。
「も、やだ…これ、いやだ…ッ」
 涙と鼻水と唾液と歯磨き粉でぐしゃぐしゃになった顔を歪ませて、虎徹は懇願した。
「ほんと、仕方ありませんね」やっと後孔から柄が抜かれた。聞き入れてくれた、そうほっとしたのもつかの間だった。「まったく、本当あなたという人は。どこまでふしだらなんですか」
「ひぎっ」
 柄の換わりに、バーナビーの熱が穿たれた。違う、そういう意味じゃない。そう訴えたくとも口を開いて上がるのは嬌声だけだ。
「ひぅ…ッ、あ、ああ、ぃ…やぁ、あっ、ぁッ」
 歯ブラシの柄ではうまく当たらなかった感じる箇所を的確に突かれて、男はもうなにも考えられなくなってしまう。
 いつも、最後はこうだ。ぐちゃぐちゃになって、なにを口にしているのか、なにをしているのか、なにをされているのか、全部わからなくなっている。
 バーナビーがどんな表情でいるのかも。
「く…っ」
 虎徹の無意識に伸ばした手が、バーナビーの背にまわる。爪をたてて虎徹は達し、同時に肉襞に熱い飛沫を感じた。


「最悪ですね」
「それはこっちの台詞だ」
 色々な液体でべしょべしょになってしまった洗面所を拭きながら、男二人はなんとも情けない気持ちを味わっていた。
「被害者はお・れ!」
 虎徹の非難をバーナビーは聞かなかったことにする。
「ったく、なんだよ俺は悪いこと一つもしてねえぞなんでおれがおまえに怒られなきゃなんないんだよ」
 ぐちぐちぶつぶつと虎徹は文句をたれながら雑巾を床に滑らせる。
「人の気も知らないのはどっちだか」
「あ? なんだよ」
「いいえ、なんでもありません」
 バーナビーのこぼした呟きが聞き取れず、反問したが青年は答えなかった。
「とにかく、もう布団以外ではセックス禁止だからな」
「……それ誘ってるんですか」
「ちっがぁーう!」
 虎徹は雑巾を投げつけたが、案の定バーナビーはやすやすと避ける。そして立ち上がりあたりを見回して言った。
「まあ、こんなもんでしょう。じゃあ僕は帰ります」
「え、ちょ」
「なんですか、引き留めるんですか。ならお望み通りベッドでお相手してもらいますよ」
 虎徹は即行で断った。

「帰れ」



おわり
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