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2011/08/30
バニーちゃんの恥ずかしい部分が全開な件
バーナビーのズボンのチャックが開いているのを虎徹が指摘する話。頑張れ、バーナビー。 GOOD COMIC CITY18の虎徹&バーナビープチ「HERO LIVE!」ペーパーラリー企画で配布したものです。
[初出:20011/08/28 4p 無配]
虎徹は目を疑った。
そう、バーナビーに限って、あのバーナビーに限って、まさか、そんな、

ズボンのチャックが開いたままでいるなんて!

確か朝は大丈夫だったはずだ。ということは、さっきのお昼休み中にお手洗いに行ってからということになるのか。虎徹は昼食から戻って隣の席に着席したバーナビーを凝視しながら考えていた。
「なんですか、おじさん。こっちじろじろ見て」
僕の顔になにかついてますか、と無遠慮な虎徹の視線に対し、バーナビーは不機嫌もあらわに言った。しかしこれでもかなり態度は軟化したほうなのだ。もしコンビを組んだ当初だったら「こっちを見るな」と一刀両断。間違っても「なにかついてますか?」なんて会話を続けようとなんかしない。
「え、いや、その」
虎徹は悩んだ。今までのようなノリでバーナビーに「おーいバニーちゃん、社会の窓全開だぜ? イケメン台無し」なんて言ったら「どうしてそういつもあなはたデリカシーのかけらもないんですか!」とかなんとか、顔を真っ赤にして叱られて、きっと一週間は口をきいてくれないに決まっている。やっと懐いてきてくれているのだ、こういうときの言動は細心の注意が必要だ。
たとえ、その懐き方に問題があったとしても。
(……ほんっと、最近の若者って意味わかんね)
バーナビーとの体の関係を持ってしまって、早二週間が過ぎた。そのときのことを思い出して、虎徹は渋面をつくった。拒否すれば、バーナビーは二度とこちらに歩み寄ってこないだろう。こんなおっさんを抱いてなにが楽しいのかわからないが、結局虎徹はバーナビーに躯を許した。
これまで四度ほど寝たが、そのわりには普段のバーナビーの態度はつっけんどんでイマイチ虎徹は距離をはかりかねている。だって、ベッドではあんなに
(ってうわああああ俺なに思い出してるんだ)
「おじさん?」
真面目な顔をして悩んで渋い顔をしたかと思えば赤くなったあげく頭をかきむしった男に、バーナビーは心配そうに声をかけた。
「あああ、いやそのすまん。変なこと聞くけど、おまえ昼休み誰かと会ったか? すれ違った相手もいない?」
実は、虎徹はバーナビーを昼食に誘ったがすげなく断られている。どうもバーナビーは会社にいるときで、必要ない限りは虎徹と一緒にいたくないらしい。人のことを押し倒しておいて、よくわからない。
「今日はお昼を朝買ってきていたので、食堂にも行っていませんし、別に誰とも会ってもすれ違ってもいませんけれど……」
虎徹の尋常ならない様子に、ついバーナビーは素直に答えてしまったらしい。普段だったら「どうしてそんなことあなたに言わなきゃならないんです」で、終わりだ。
「そうか、よかった」
「あの、話が見えないんですが」
勝手に一人で納得して安心した虎徹に、バーナビーが理由を話せと詰め寄る。
「すまん、ここじゃちょっと言えない。から、ちっと人がいないところきてくれっか。あー……屋上とか」
「はあ?」
「頼む、誰にも聞かせられないんだ。おまえと二人きりになりたい」
渋るバーナビーに、虎徹は真剣な表情で食い下がった。バーナビーははっと息を飲む。慌てて崩れかけた表情を戻した青年は、ちらりと経理の女性に視線を流す。彼女の顔には「いいからいけば」と書いてあった。
「わかりました」
「あ、っと、立つのは椅子を入口側に回してからな。あと絶対廊下で人とすれ違わないように行くから。もしどうしても駄目だったら俺の後ろに立て」
「はあ、」
まったく得心のいかないバーナビーだったが、それでも彼は虎徹の言うことをきいて屋上までついてきた。さいわい、誰とも合わずにすみ、屋上へ到着した虎徹は大きく安心のため息をつく。
「よかった。誰にも知られちゃ困るからな」
「それで、ここまで大層なことをして、なんですか。僕に言いたいことって」
心なしかそわそわした様子をみせるバーナビーに、大ごとにしすぎてしまったかなと罪悪感を抱きつつ、虎徹は青年と向き合った。
バーナビーの碧いきれいな瞳を、じっと見据える。
「その、落ち着いて聞いてくれ。そんで、聞いても怒らないでくれ」
「おじさん……?」
虎徹は自分の顔が緊張で赤くなるのがわかった。やはりこういうことを改めて指摘するのは恥ずかしい。すると、なぜかバーナビーも表情を赤らめたので、虎徹は「ん?」と内心首をかしげる。しかしバーナビーが赤面するような理由も思いつかないし、そんなことより今はもっと大事なことがある。
「その、実は、おまえの」
ここまで言って、バーナビーが怖いくらいにこちらを見つめてきていたので、虎徹は思わず視線を外してしまった。
「や、やっぱ言うのこええ」
「おじさん!」
「へ?」
すると、まるで虎徹を励ますかのようにバーナビーが男の手をぎゅっと握った。
「怖くなんかありません、聞いても、僕絶対怒りませんから、言ってください。あなたの口から、聞きたい」
「お、おう」
なんだ、バニーもこうやってきちんと向き合えば同じように真剣に返してくれるんじゃないか。虎徹は感激して、少し涙目になる。
「俺、おまえにどうしても伝えなきゃって」
「はい……はい、おじさん!」

「バニーちゃんのズボンのチャック、開いてる」

「えっ」
「えっ」
バーナビーのハンサムが、崩壊した。
「バ、バニーちゃん?」
イケメン顔出しヒーローとしては、とても放送できない酷い表情になったバーナビーに、虎徹は驚く。
「おい、おいバニー!」
瞳孔をかっぴらいた青年をゆすると、やっと焦点が合う。目が合ってホッと微笑みかけた瞬間、バーナビーの形相が般若のようになり、虎徹はひっと息を飲んだ。
「おじさん、あなたという人は……ッ」
地獄の底から這い出るような声に、虎徹は恐怖で縮みあがる。握った手をぎりぎりと万力のように締められた。
「い、痛っ、痛いってバニーちゃん! つか怒らないって言ったのに、嘘つき!」
「嘘つき上等です。僕の純情をもてあそんだ罪は重いですよ、一生忘れません」
お仕置きです。
据わった目で告げたバーナビーの手が、いっそう男の手をきつく握る。
一歩、青年は近づくが、虎徹は逃げられない。
また一歩。もう鼻先まで三センチ。
「バ、バニーちゃん近い、近いって、え、ちょ、なに、待っ」
アッー!
その日の昼下がり、アポロンメディアの屋上からすがすがしいほどの絶叫が聞こえてきたという。

おわり
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