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2011/10/11
アルヴィンは形見しか増えない。
アルヴィンとジランドの関係まじ無限大。
[ 初出:『Distribution of Mementos.20』2010/10/09 コピー 20P 無配 ]
自分の墓を見るっていうのは、おかしな気分だ。
「だーれも中にいねえのにな」
父も、母も、自分も。そして、叔父も。
ジルニトラに乗船したスヴェント家の者は、全て遠い異郷の地で果てた。
スヴェントの当主が二十年たってようやく決まったそうだが、今更未練もない。あるとすれば、やはり母だ。
彼女のために、二十年過ごしてきた。あともう少し生きててくれれば、エレンピオスの土を踏ませることができたのに。
あんなに帰りたかったのは母のためだと言うのは、今ここにいる自分が、エレンピオスにいることがさして嬉しくもなんとも思っていないことからわかる。
だが、それはまるで罪のようだ。喜べない自分は、悪い子供のような気がする。
結局、帰ることに一番喜びを見いだせなかった人間だけが、帰ることができた。
なんという皮肉だろう。
「だって俺、一度はリーゼ・マクシアで生きるって、選択したんだぜ?」
アルヴィンはしゃがむと、墓石に花束をそなえる。
父の銃と、母から受け継いだガンベルト。そして今着ている叔父のコート。
「俺には、形見しか残らねぇのかな」
近くにいた人間は、全て死んでしまった。ジルにいたっては形見すら残らなかった。
実をいうと、ジュードやレイアやエリーゼやローエンや、一緒に旅をした人間がいつ死んでしまうのか恐ろしかった。
自分は、まるで死神だ。
自分自身の思い出だって殺している。
忘れてしまった、六歳の自分。
忘れねばならなかった、アルフレド。
「ずるいよな、俺。今になってから、沢山思い出したことがあるんだ」
アフルレドを知っている人間は、もうバランだけだ。その彼のおかげ――いや。せいで、今、自分はこんなにも苦しい。
『君はさ、ジランドール叔父さんに嫌われていたって、思い込んでるだけじゃないかな。少なくとも、僕が覚えているかぎりでは、親戚の中で一番君を大事にしてくれてたとおもうよ? 当主として忙しかった父親のかわりに相手をしてくれていなかったかい?』
そんな記憶、知らない。
だって、父はどんなに忙しくても息子の自分を、
『記憶がすり替わってるのかもしれないよ。だいたい、そんな憎い相手なら、さっさといい機会だし殺してるだろう。君の話すジランドール叔父さんならね』
バランの言葉は、ありえないと一蹴できるほど、自分の記憶に自信が持てない。
「あんた、ほんとどっちなんだよ」
憎まれたほうが、アルフレドが生きやすいと思ったからか? リーゼ・マクシアは敵しかいない。気弱な甥を世話できるほどアルクノア首魁は暇ではないだろう。
それはそれで、ジランドールに捨てられた気がしてしまった自分は、実はもう思い出してるんじゃないか。本当のことを、知っているのに知らないふりをしているんじゃないか。
父が死んだのは、自分達を助けようと庇ったから。
本当に?
ジランドールは俺達を憎んでいた。
本当に?
叔父は、叔父は、叔父は叔父は叔父は――。
本当のことは?
自分は、どうしてそんな嫌いな相手のコートを欲しがって、気に入って、こんなに大切にしているのだろう。
「でも今更思い出したって、もう仕方ねえじゃん」
独りで生きていけるように教育してくれたのは、アルクノアが悲願を達成できず滅びても、生きていけるように?
わからない。
答えはでない。
でても、確かめるすべがない。
思い出したとしても、それが正しい記憶であるか、判断しようがない。
正直なアルフレドはもういない。アルヴィンは嘘でできている。
覚えていること。事実として確定していること。
ジランドールに銃を教えてもらったこと。
「起きたことは、体験した事実自体は、間違ってなくたって、気持ちなんて、あとからどうにだって改竄されるんだ」
思い出そうとするたびに蘇ってしまう銃を教えてくれた手のぬくもりなんて、もう、忘れてしまいたいのに!

嗚呼、やっぱりあんな叔父、大嫌いだ。

おわり
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