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2011/10/11
ミラ様はじめてのおトイレ
タイトル通りの酷い内容。頑張れ、ジュード……。
[ 初出:2011/09/18 コピ 4P 無配 ]
産まれて初めて、食事というものをした。
「とても、おいしかった」
ミラは呟いた言葉をなぞるように、そっと唇に指先をあてた。ジュードは、確かマーボーカレーと言っていたか。空腹という絶望にさした一筋の希望の光。大げさな例えだが、あまり負の感情を体験してこなかったミラにとって空腹は目の前が真っ暗になるような事態であり――事実、くらくらしすぎて倒れた――それを救ってくれたジュードの食事は、まさに希望だった。
疲れる、という感覚もきっと初めて実感した。それで今日は腹が満たされると机に突っ伏して眠ってしまったが、眠りというのも初めてだった。あの満腹という幸福に付随して強烈に引き起こされた感覚。あれが睡魔というものだろう。抗えなかった。そうして、気づいたら宿の寝台に眠っていた。運んでくれたのはアルヴィンだろう。ジュードを抱えてあの跳躍。なれば、この身一つ寝台へ運ぶなど造作もない。
「ふぅむ」
そして、今感じて起きた身体の妙な落ち着きのなさも、産まれて初めてのものだ。てっきり朝までぐっすり眠れるものだと思っていたが、やはり本で読んだ知識より実体験は勝る。現象を理解できても感覚は理解できていなかった。
なので、このもぞもぞむずむずする、いてもたってもいられない感覚がなんなのかわからない。
「仕方がない」
ミラは寝台から起き上がると、そっと寝静まる宿の廊下へでた。いったんフロントへ降りてジュードの部屋の場所を聞く。きっと寝ているだろうが、こちらもむずむずもぞもぞを解決しないことには眠れない。人間は疲労を睡眠で回復させるという。精霊の力がない今、この体は人間のそれだ。明日ニ・アケリアへ行くのに眠れず疲労が溜まっていたら困る。
(許せ、ジュード)
ミラは心の中で一言謝罪すると、ノックをする。控えめにしたつもりだったが、夜の静まり返った廊下に意外と高く響いた。
「はーい、どちらさまですか」
さらに意外なことに、中から応答があった。
「私だ、ジュード」
「え、み、ミラ!? ちょ、ちょっと待って」
なにやらごっとんがったん音がした後、ジュードが扉を開いて顔をのぞかせた。
「すまないな。寝ていたのだろうが、どうしても君に聞きたいことがあってきた」
「ううん、まだ寝てなかったから大丈夫。気にしないで。それより聞きたいことって、ええと……な、中入る?」
「うむ、そうしてくれるとありがたい」
上目使いでうかがうように聞いてきたジュードに、ミラはなんの気負いもなく答えた。
「じゃ、じゃあどうぞ」
ジュードに案内され、ミラは部屋に入る。椅子は一つしかないので、ジュードは寝台に座るとミラに椅子をすすめた。しかし、なにかこのむずもぞは下腹部から発せられているようで、座る気にはなれずミラは断った。
「どうしたの、ミラ」
落ち着かない様子にミラにジュードが心配そうに尋ねる。
「うむ、実はな。どうも体がむずむずするというか落ち着きがないと言うか、いてもたってもいられなくて、寝ていたのに起きてしまったのだ」
「えっ、そうだったの。どうしたのかな。ええと、熱はないようだし……むずむずするって、体全体が?」
ミラが身体の不調を訴えるなり、立ち上がると医学生らしくジュードは額に手をやったり他に異常がないかミラを診てまわる。一周されて、正面に立ったジュードに、ミラは指をさして答えた。
「このあたりが特にむずむずする」
「えっ。」
指をさした箇所に、ジュードは瞠目する。
「あ、あの、さ、ミラ。聞きにくいんだけど、いいかな」
「なんだ。かまわない。人間の病気について君は詳しいだろう。私の体の異常は使命の遂行に関わる。忌憚ない意見、質問をたのむ」
ジュードは驚くなりすぐにうつむいてしまって、ミラからは表情が見えない。ただ、声の調子が本当に気おくれしていて、なにか悪い病気なのかとミラは考えてしまった。
「あ、あの、それじゃあ聞くけど、怒らないで、ね」
「ああ」
怒る? ミラは首を傾げたが、とりあえず返事した。すると、ジュードは面をあげる。どうしたことだろう。彼の方が熱があって具合でも悪いのではないのだろうか。顔が真っ赤だ。
「ミラってさ、お手洗い行ったこと、ある?」
「オテアライ? 手を洗ったことならあるぞ」
「そ、そういう意味じゃなくて!」
「ジュード、どうした。君こそ熱があって具合が悪いのではないか? 耳まで赤いぞ」
「僕のことはいいから!」
指摘すると、ジュードは声を荒げた。これが逆ギレというものだろうか。医者の不養生とはいったものだな。などとミラは見当違いのことを考える。
ジュードは何度か唇を開いては、閉じる。それが十数秒続いたのち、きゅっと唇を引き結ぶと覚悟を決めたように眦を釣り上げ、ジュードは叫んだ。
「ミ、ミラは今までおしっことかうんこしたことあるかって聞いてるの!」
「おお。ないな」
あっさりと。あまりにもあっさりと葛藤なくミラは答えた。
「そうか、なるほど。これが尿意というものか」
「わかったなら! すぐトイレに行ってッ、我慢するとそれこそ本当に病気になっちゃうから……」
感心し、むしろ感激すらしているミラに対して、ジュードの叫びはだんだん尻すぼみになっていく。なぜか目じりには涙が浮かんでいた。そんなジュードに追い打ちをかけるように、ミラは言う。
「教えてもらって助かった。だがもう一つ問題がある。トイレの使い方を教えてくれ」
「え、えぇえええええ!!!?!」
ミラのとんでもない申し出に、ジュードは再び叫んだ。
「みみみみみみみみらなにいってるの」
「仕方ないだろう、食事風景は見たことがある、つまり食べ方は真似ができた。が、こっちは見たことがない」
「そ、そうだけど、で、でもさすがにそれはできないよ!」
「無理か? おかしいな。確かに私は女で男の君と体の造りは多少異なるが、医学を学んでいたジュードにはきちんとした知識があるだろう。用具の説明さえちゃんとしてくれれば、私は大丈夫だ」
「へ? あ……あっ!? そ、そうだよね!」
ミラの言葉に、ジュードはほうける。だがそれも一瞬のことで、ジュードは途端平静さを取り戻した。
「う、うん。そう、そう、そうだよね。うん」
ミラへ問いかけるというより、必死に己に言い聞かせる呟きに、ミラは怪訝そうに眉を寄せた。
「ジュード?」
「だっ、大丈夫、大丈夫だからなんでもないから! え、ええと、じゃあとりあえずこっちきて説明するよ」
逃げるようにトイへ向かったジュードの後にミラは続く。
これがトイレットペーパーだとか、終わったらレバーを引いて水で流すだとか、いっそ事務的ともいえる口調でジュードは一通り説明する。
「ふむ、助かった。じつはもう限界なのだ。部屋へ戻る時間が惜しい。借りるぞ」
「ちょ、待って、うわあっ」
止めようとするジュードを小さな個室から追い出して、ミラは鍵をかける。
数分後、トイレから出たミラは部屋の隅にしゃがんで耳を覆い小さくなっているジュードを発見するのだった。

おわり
 
> ミラ受 > ガイアスがミラを嫁に欲しいとか言い出したので、ジュードとウィンガルが結託して邪魔しようとする話。
2011/10/11
ガイアスがミラを嫁に欲しいとか言い出したので、ジュードとウィンガルが結託して邪魔しようとする話。
ジュード→←ミラ←ガイアス←ウィンガル。キャラ崩壊ってレベルじゃない。ガイアスとウィンガルが酷いあて馬。みんな(ウィンガル以外)ミラ様が大好き。アル憫。ごめん、ガイアスでるとどうしてもギャグ無理。
[ 初出:『Distribution of Mementos.20』2010/10/09 コピー 20P 無配 ]
バランのマンションに来客のチャイムが鳴ったので、玄関を開けたらウィンガルがいた。なんて、普通予想できない。
「バランさんは留守なのでお引き取り下さい。じゃ」
「まて、アルヴィン。私はマクスェルに用があるのだ、扉を閉めるな」
あと三センチの隙間に足先を突っ込まれた。
「ミラ様もいませーん」
「勘違いするな、私は話し合いに来たのだ」
でなかったら扉ごと粉砕している。もっともなことを言ったウィンガルだったが、アルヴィンがそれでほいほいと入室を許可するはずがない。
「ぐぁっ、きっさま……!」
ぎりぎりと足を挟む扉に力をこめる。ウィンガルは苦痛に顔を歪めるが、しかし手を出そうとはしない。まさか、本当に話し合いにきたというのか。
「よし。」
抵抗できないと知って、アルヴィンはますますウィンガルの脚を挟む扉に力をこめる。
「ヤイオ エディン ディオドゥン!」
ウィンガルはとうとう堪忍袋の緒が切れたのか叫んだが、ロンダウ語だったのでアルヴィンにはさっぱりわからない。まぁ、とりあえず悪口だったというのは理解したが。
「どうしました」
「あ、じーさん。なんかウィンガルが来たから咄嗟に扉閉めたら、足はさんじまって。力入れたら罵られた」
「『失礼なやつめ!』ってところでしたね。ロンダウ語が聞こえたのでまさかと思ってみにきたら……おやおや」
扉の隙間から、ウィンガルが射殺しそうな目でにらんでいるが、ローエンは扉を破壊しないことと、先ほどのロンダウ語からこの参謀が話し合いに来たのだと見当をつけた。
「アルヴィンさん、意地悪をしないでどうぞ招いておあげなさい」
「でもよ、ここはバランちで、俺んちじゃねえぜ。なにかあったら怒られるのは特に俺なんだけど」
「ヂ シスンティアウムグ! ヤイオ ティティアンディホワクゥムグ ブエワクスティエブブゥムグ ユオデス クゥススゥムグ フディウンムド!!」
「なんて言ったの?」
「スラングまでいくと輪をかけて自信はありませんが……多分アルヴィンさんが聞いたらマジギレしますね。まあ穏便に訳すると『おまえの最低の友達をなんとかしろ』ということです」
「えー、なにその上から目線。いいのかじーさん、こんなやついれちまって」
「ここまで罵られて手を出さないのですから、逆に大丈夫ですよ。それに、いざとなったら全員でボコれば、まあ部屋は半壊するでしょうがなんとかなるでしょう」
「わかった。どーぞ、革命のウィンガル殿。一応ここ俺の従兄弟の家なんで、穏便に頼むぜ」
「一番不穏なのはおまえだ。邪魔するぞ」
ようやく解放された足先を気にしながら、ウィンガルはアルヴィンとローエンに続く。
「みんな、お客さんだぜ」
「えっ、ウ、ウィンガル!?」
リビングで食事中だったなか、スプーンを持ったままいち早くジュードが立ち上がった。
「大丈夫です、今日は話し合いに来られたそうですから」
「ふむ、主人と違って喧嘩っぱやいやつだと思っていたが、そうでもないのだな」
マーボーカレーを食べる手を止めずミラが言った。レイアとエリーゼも一応気にしてこちらに視線をよこしているが、まあ話なら大丈夫かと食事を再開する。
「お父さん……」
最後にブースターが不吉な言葉を漏らしたが、ウィンガルは黙殺した。
「は、なに? おたくティポの親父なわけ?」
そこにいらない茶々をアルヴィンがいれる。
「そうだよぉ〜、だってウィンガルおとーさんがブースター研究の被験者第一号だもん。僕はそのおかげで産まれたんだから」
答えないウィンガルに変わり、ティポが胸をはって答える。
「ふーん、おたくいい趣味してるのな」
どう見てもティポは素直にかわいいとは思えない。
「黙れ。褒めてもなにもでんぞ」
「えっ」
アルヴィンは目を剥いた。追及するより先に、ウィンガルはミラに話かける。
「そんなことより。マクスェル、話がある」
「なんだ」
「ガイアス様をフッて欲しい」
「えっ」
「ほう」
「え?」
「ぶはっ」
ジュード、ローエン、エリーゼ、レイアが騒然とする中、ミラ一人だけが意味が分からず怪訝そうな表情をした(アルヴィンは未だティポショックから復活していない)。
「ふる? ガイアスを掴んで揺するのは、さすがに骨が折れそうだが」
「違う。ガイアス様はおまえを娶るおつもりだ。もしプロポーズされても、陛下と結婚する気はないと断ってくれということだ」
「ふむ、わかった」
えええええええええええええええ!?
周囲が絶叫するなか、ミラは平然と応えた。一番慌てたのはジュードだ。
「ガ、ガイアスがそんなこと言ってたの」
「そうだ。『俺はこの戦いが終わったらミラと結婚する』とはっきりとおっしゃった。死亡フラグだ。なんとしてでも阻止せねばならん!」
ぐっと拳を握りしめてウィンガルは叫んだ。
「それに相手がマクスウェルだろうが誰であろうが、そもそも陛下が結婚など許さぬ!」
「そっちのほうが本音だろ」
「ち、違う! 跡継ぎが出来ては、またロンダウ族が覇権を握ることが難しくなってしまう」
アルヴィンの冷静なツッコミに、ウィンガルは大きく腕を振って答えた。なにもそこまで大げさに否定しなくてもいいのに……。
「ガイアスはいい年だからそろそろ結婚したほうがいいと思うけど、ミラはだめだよ!」
ジュードもスプーンを握りしめたままウィンガルに半ば同意する。
「もしミラにフラれてもガイアスが諦めないようだったら、僕その点はウィンガルに協力するから、なんでも言って」
「そうだな、そのほうがいい。私は子供が産めないから、王妃には向いてない」
「そ、そういう問題じゃ、」
とんでもないことをさらっと言うミラに、ジュードは顔を青くする。だめだ、ミラは全然わかってない!
「よし、その場合はおまえにも協力してもらおう。ジュードがマクスウェルと結婚してしまえば、さすがに陛下も諦めて下さるだろうからな」
「うん、わかった」
さらにとんでもないことを言ってきたウィンガルだったが、ジュードは即答した。
ガイアスがジュード達を打ち負かしジンを駆逐することを前提に彼が話しているのはこのさい仕方がない。蒸し返しても話がややこしくなるだけだ。どちらにしろミラと結婚などさせないのだから、関係ないとジュードは割り切る。
「おまえのことだからさっさと私を殺すかと思えば、また手の込んだことをするな……」
「陛下に釘をさされた。今まで私は独断でガイアス様の邪魔者を排除してきたが、今回ばかりは仕方ない」
呆れとも感嘆ともつかないミラの嘆息交じりの言葉に、ガイアスはしごく嫌そうに口角を曲げて答える。ミラに結婚について言及されなかったことに、ジュードは地味に傷つく。
「おまえたち、勝手に話を進めるな」
そのときだった。聞き覚えのある、低く艶やかな存在感を示す声音が部屋に響く。
「ガイアス!?」
「アースト!?」
どうしてここに。驚く皆をよそに、ガイアスは迷いのない足取りでミラの隣へおもむく。
「我がものとなれミラよ」
「断る」
誰も止める暇もなかった。もっとも、ガイアスの求めにミラは直球で断りをいれたため、止める必要もなかったろうが。
ジュードはミラとガイアスの間に割って入る。
「諦めてよガイアス。シェルは消滅させる。ジンも失くさない。オリジンで代用していく」
つい先ほどまでジュードの牽制はジュードとミラが結婚することであると話していたので、この台詞は一見繋がっていないように聞こえる。しかし、ジュードはガイアスならわかると確信していた。
――ミラを助けるために、ジンを駆逐しようとするガイアスなら。
案の定、レイア達はわけがわからないというふうに二人のやりとりを見ている。
「俺の意志は変わらない。もやは拳でしか我々は決着をつけられない」
ガイアスとジュードの間に緊張が走る。アルヴィンが「だからここバランの家!」と後ろで叫ぼうとしてティポが顔を呑み込んでいた。
「だが、今はそのときではない。ゆくぞ、ウィンガル」
「はっ」
ガイアスの真後ろの空間が裂けた。ジュードは臨戦態勢を解く。虚空に消える二人を見送ってから、ジュードは大きくため息をついて肩を下ろした。
「はぁ、びっくりした」
「マンションが大破するはめにならなくてよかったですね」
「それ、アルヴィンに言ってあげてよ」
「んぐー!」
「『俺はちゃんとミラの心配もしてた』ってアルヴィンが言ってます」
「そ、そろそろティポ外してあげたら?」
「ジュード、マーボーカレーおかわりだ」
相変わらず緊張感のないパーティーにジュードは苦笑する。
「ちょっと待っててね」
ミラから皿を受け取ったジュードはキッチンへ向かう。
「結婚、かぁ」
ご飯をよそい、ルーをかけながらジュードは呟く。
文字通り、それは夢だ。
だが、夢は見ることができる。
見ることだけは、できる。
それでも、ジュードはミラとの将来が想像できなかった。
それでいい。
きっと、思い描えてしまえるようなら、ミラとは道がたがえている。ガイアスのように。
ミラと同じ道を選ぶ。
同じ未来を信じている。
それは共にあることという意味ではない。
だから、
「はい、おまたせ」
キッチンから戻ってきたジュードが私た皿をミラが笑顔で受け取った。
「ありがとう、ジュード」
大丈夫だよ、ミラ。お礼を言うためにおかわりを頼んだこと、僕はちゃんと知ってるから。

おわり


おまけ
ガイアスさんはウルスカーラに戻った瞬間
フラれたショックで体育座りしてメソメソしだたので
ウィンガルさんが機嫌とって慰め終わるのに随分時間がかかりました。


間違えまくりのロンダウ語録
「ヤイオ エディン ディオドゥン!」
  you are rude!
 失礼なやつめ!
「ヂ シスンティアウムグ! ヤイオ ティティアンディ ホワクウムグ ブエワク スティエブブゥムグ ユオデス クウススゥムグ フディウンムド」
 Do something! Your motherfucking backstabbing Judas-kissing FRIEND!
 おまえの汚い罠にはめて裏切る友達をなんとかしろよ!
 
> ジラアル
ジラアル
 
> ジラアル > アルヴィンは形見しか増えない。
2011/10/11
アルヴィンは形見しか増えない。
アルヴィンとジランドの関係まじ無限大。
[ 初出:『Distribution of Mementos.20』2010/10/09 コピー 20P 無配 ]
自分の墓を見るっていうのは、おかしな気分だ。
「だーれも中にいねえのにな」
父も、母も、自分も。そして、叔父も。
ジルニトラに乗船したスヴェント家の者は、全て遠い異郷の地で果てた。
スヴェントの当主が二十年たってようやく決まったそうだが、今更未練もない。あるとすれば、やはり母だ。
彼女のために、二十年過ごしてきた。あともう少し生きててくれれば、エレンピオスの土を踏ませることができたのに。
あんなに帰りたかったのは母のためだと言うのは、今ここにいる自分が、エレンピオスにいることがさして嬉しくもなんとも思っていないことからわかる。
だが、それはまるで罪のようだ。喜べない自分は、悪い子供のような気がする。
結局、帰ることに一番喜びを見いだせなかった人間だけが、帰ることができた。
なんという皮肉だろう。
「だって俺、一度はリーゼ・マクシアで生きるって、選択したんだぜ?」
アルヴィンはしゃがむと、墓石に花束をそなえる。
父の銃と、母から受け継いだガンベルト。そして今着ている叔父のコート。
「俺には、形見しか残らねぇのかな」
近くにいた人間は、全て死んでしまった。ジルにいたっては形見すら残らなかった。
実をいうと、ジュードやレイアやエリーゼやローエンや、一緒に旅をした人間がいつ死んでしまうのか恐ろしかった。
自分は、まるで死神だ。
自分自身の思い出だって殺している。
忘れてしまった、六歳の自分。
忘れねばならなかった、アルフレド。
「ずるいよな、俺。今になってから、沢山思い出したことがあるんだ」
アフルレドを知っている人間は、もうバランだけだ。その彼のおかげ――いや。せいで、今、自分はこんなにも苦しい。
『君はさ、ジランドール叔父さんに嫌われていたって、思い込んでるだけじゃないかな。少なくとも、僕が覚えているかぎりでは、親戚の中で一番君を大事にしてくれてたとおもうよ? 当主として忙しかった父親のかわりに相手をしてくれていなかったかい?』
そんな記憶、知らない。
だって、父はどんなに忙しくても息子の自分を、
『記憶がすり替わってるのかもしれないよ。だいたい、そんな憎い相手なら、さっさといい機会だし殺してるだろう。君の話すジランドール叔父さんならね』
バランの言葉は、ありえないと一蹴できるほど、自分の記憶に自信が持てない。
「あんた、ほんとどっちなんだよ」
憎まれたほうが、アルフレドが生きやすいと思ったからか? リーゼ・マクシアは敵しかいない。気弱な甥を世話できるほどアルクノア首魁は暇ではないだろう。
それはそれで、ジランドールに捨てられた気がしてしまった自分は、実はもう思い出してるんじゃないか。本当のことを、知っているのに知らないふりをしているんじゃないか。
父が死んだのは、自分達を助けようと庇ったから。
本当に?
ジランドールは俺達を憎んでいた。
本当に?
叔父は、叔父は、叔父は叔父は叔父は――。
本当のことは?
自分は、どうしてそんな嫌いな相手のコートを欲しがって、気に入って、こんなに大切にしているのだろう。
「でも今更思い出したって、もう仕方ねえじゃん」
独りで生きていけるように教育してくれたのは、アルクノアが悲願を達成できず滅びても、生きていけるように?
わからない。
答えはでない。
でても、確かめるすべがない。
思い出したとしても、それが正しい記憶であるか、判断しようがない。
正直なアルフレドはもういない。アルヴィンは嘘でできている。
覚えていること。事実として確定していること。
ジランドールに銃を教えてもらったこと。
「起きたことは、体験した事実自体は、間違ってなくたって、気持ちなんて、あとからどうにだって改竄されるんだ」
思い出そうとするたびに蘇ってしまう銃を教えてくれた手のぬくもりなんて、もう、忘れてしまいたいのに!

嗚呼、やっぱりあんな叔父、大嫌いだ。

おわり
 
> アルジラ
アルジラ
 
> アルジラ > 【R18】甥に殴られても 余裕かましてたら ケツ掘られた。
2011/11/01
【R18】甥に殴られても 余裕かましてたら ケツ掘られた。
タイトル通りの内容。スパークで出したアルジラペーパー。手直ししようとおもったけどそれじゃあいつまでたってもあげないと思ったのでうp。誤字すら直してない。冬コミはちゃんと本でアルジラりたい。
[初出:2011/10/23 A5コピー 4p]
甥は会うたびにすさんでいる気がする。
久しぶりに再会したアルフレドに、ジランドールはすっと目を細めた。
昔は……義姉が正気だったころはまだ可愛げがあったが、十五を過ぎたころにはもう無理やり大人に育っていた。金で雇われればなんだってする傭兵稼業。それでもアルクノアにいるよりましだと、長い首輪の鎖を引きずりながら生きる甥に、憐憫とも苛立ちともとれない感情が湧く。
アルクノアの外にでても、こんな世界では一人でしか居られない、独りでしか生きられない。リーゼ・マクシアの人間と我々は相いれない。情を交わそうがいずれこの世界を壊しエレンピオスに帰る。必ず別れる。最初からそう決まっていて、どうしてあいつらと仲良くなんかできる? はずがない。
「仕事くれよ。ワリのいいやつ」
ジランドールは最近イル・ファンにいりびたりでジルニトラはおろかアルクノアの拠点すら、あまり顔を出していない。そのかわり、構成員とは綿密にやりとりしているので、こうしてたまたま王都にいるときに運悪く(?)甥に捕まってしまった。ラ・シュガルの情報部に雇われていたと思ったが、仕事をねだるからには契約は終了してしまったのだろう。
「急に来て金の無心か。意地汚ねえやつだ」
男の言葉に、青年はあからさまにむっとした表情を見せた。今回はまた、特に機嫌が悪そうだ。今までならこれくらいの言葉、薄っぺらい笑顔で適当に受け流していた。
「あいにく、ワリのいい仕事なんざねえ。こっちは今黒匣の開発で忙しいんだ」
こちらを毛嫌いしながら、弱ったときに縋ってくる。そんなんじゃいつまでたってもその首輪と鎖は外れれないぞ。ガキが。当人はもちろん、そうやって気にかけてやる己にも虫唾が走る。
「都合のいいときばっか頼って。とっとと帰れ」
吐き捨てるように言って、邪険に手を振ったときだった。突然の衝撃。床に打ち付けた痛みのあとから、頬の熱を感じた。アルフレドに殴られたと理解したのは、それからだ。
無言で立ち上がると、今度は腹を殴られた押し倒された。男は抵抗しない。さらに腹にもう一発。
ようやく、ここで相手は動きを止めた。ジランドールが反撃してこないと思い至ったのだろう。アルフレドは激しい憎悪の感情を浮かべた。
「気がすんだか」
憐れむわけでなく、嘲るわけでなく。ジランドールはただ静かに事実の確認の為に問う。すると、青年の憤怒の表情が一転、笑みに変わった。笑顔といっても、正の感情から形作られるものではない。ほの昏い深淵を覗き込むとき、きっと闇はこんな顔をして笑う――。
そう思ったときには、アルフレドの顔が眼前にあった。
「ッ!?」
ジランドールは驚愕に表情を歪める。声は出せなかった。口が塞がれていた。アルフレドの、その唇で。
「んぅ……!」
茫然として、開いた口の隙間に相手の舌先が滑り込んできた。ようやく男は我にかえる。
「ってえ……。マナーがなってねえな、叔父さん」
咥内に錆びの味が広がったときには、アルフレドが口を離していた。
「なに、を」
「なにを? なにも」
殴ればいいのか、怒鳴ればいいのか、逃げればいいのか。しかしジランドールは引き攣れた声で問うしかできなかった。青年は鳩尾に膝を乗せ、両手を床に縫い付けていた。圧迫される胸。息がかすむ。抵抗できない。
「ただ、こうでもすればあんたが怒るかなって、思っただけさ。はは、予想通りだったけど」
「あ、たり前、だ……っ」
可笑しそうに見下ろす甥に、叔父は理解できないものを見る目で睨みつけた。つまり、恐怖。
アルフレドはこちらを怒らせたかったのか? ただ、そのやり場のない激情を爆発させたかったのなら、確かに自分も応戦してやればよかったのかもしれない。だが、だからそれはただの甘やかしだ。独りで生きるというなら、その手はとれない。
しかしその振り払った手を掴まれ押し倒され拘束されてしまうとは、思ってもみなかったが。殴られるくらいならいいが、これは遠慮したい。全力で。
「離せ」
「やだね。せっかくあんたに嫌がらせできるんだ」
嫌がらせ! 確かにものすごい効果的だが、それで男にキスをするのか。最悪だ。
ジランドは嫌がらせと称され、本当に嫌な顔をした。その顔が、さも愉快とばかりにアフルレドは再びキスしようとしてくる。男は顔を背けるも無駄な動作だった。重ねられた唇を割り、舌でこじ開けようと生暖かい感触がべちょべちょと無遠慮に粘膜に響いた。
「んむぁ……っ」
キスだけではなく下半身まで握られて、男は悲鳴をあげる。それがアルフレドの咥内へ消える代わりに、舌が入ってきた。
「んーッ」
舌を噛めば絶対にイチモツを潰される。進退ここに極れり。
両腕をスカーフでくるまれて、上にあげられた腕の間に剣を刺された。反抗するには流血を覚悟しなければいけない。ここは犬に咬まれたと思ってやり過ごすか。ここで適当に流せば、反応が面白くないと、もうこんなことはしてこないだろう。
「――って、なにしてやがる!?」
ズボンを引きずり降ろされて、脚を抱え上げられたときジランドールは異変を察知した。いや、確かにそもそもこの事態は異常だ。だが、なぜ甥にけつの穴に指を突っ込まれようとしているのか。
「なにって、これからあんた犯すんだよ。どーせキス程度、犬に咬まれたくらいだし減らないしとか思ってんだろ。残念でした」
アルフレドはしてやったりと口角を釣り上げる。この瞬間、ジランドールは流血しようがどうしようが逃げる決意を固めた。が、させまいと脚を振り払おうとした直前、鳩尾に重い拳を一発叩き込まれる。
「が、は……ッ」
「大人しくしてりゃあ優しくしてやったのに」
あんたが悪いんだぜ、と全然こちらが悪くないというのに悪者にされてジランドールは憤った。ろくすっぽ慣らされていいないのに、アルフレドのペニスの先が後孔にあてがわれる。胃の腑に氷の塊を押し込められたように背筋が震えた。なんで。甥は同じ男で別にきれいでもなんでもない、しかも叔父におっ勃ててるんだ!?
「や、めっぎ、ぁが、ああッ」
酷いなんてものではない。激痛が身を裂いた。ジロンドールは容赦なく埋ずめられていく凶器に、背を反らせ瞳と口を大きく開く。
「っく、きっつ……、あ、でも裂けたからかな、ちょっと血で動きやすくなった」
「ぐっあ、あッは…ヤメ、っあ」
青年は相手への気遣いなど一切なく、勝手に自身のいいように腰をふる。男は今にも気絶しそうだった。目の前が明滅し、苦痛という苦痛にひたすら叫ぶしかない。
「っく…!」
アルフレドは小さく呻いて吐精した。ずるりと抜けた性器には血液と精子が混ざり、グロテスクな朱色になっている。腹に当てつけのために塗りたくられたそれを見て、ジランドールはあらん限りの怨嗟を込めて睨みつけた。
「はは、これで正気保ってられるんだ、へぇ」
アルフレドは、笑った。今までのような邪悪な笑みではない。晴れやかに、アルフレドは笑う。そして、まるで好意をつげるような、甘く優しい声音で囁いた。
「早く俺のとこまで堕ちてくればいいのに」
――無理矢理犯されたときよりも、ぞっとした。
絶句するジランドからスカーフと剣をとると、唐突に興味がなくなったように、アルフレドは扉へ向かう。
「またくるぜ、叔父さん」
男がほっとしたのもつかの間、不吉な言葉を残して青年は退出する。
ひとり残されたジランドールは、しばらく身動きすらできなかった。またくる。その言葉の意味がわからぬほど、自分は馬鹿ではない。吐き気がした。欲求のまま胃の中身をぶちまける。
汚物まみれになりながら男は大声で自嘲した。

 
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