書類がうず高く積み上がったシオンの机の上に、練乳がたっぷりのった苺が置かれてた。ライナは椅子をよせ、二人は隣同士で座る。
「お、うまそうだな」
「ふふん、だろう」
持ってきたメイドがなんか「ああ陛下が自主的に食べ物をご所望されるなんて」云々感涙にむせいでいた気がする。ライナははやくこの仕事馬鹿をどうにかしてくれと思った。エスリナや筋肉馬鹿は、どうやらその『誰か』をライナに押しつけているような気がするが、こっちはむしろシオンに不眠不休を押しつけられている身だ。無理にもほどがある。どんなに寝させろとわめき叫ぼうが仕事を容赦なく押しつけてくる極悪非道の残虐王なのだ、あいつは。
さておき、だからといって苺に罪はない。ライナはありがたく相伴にあずかることにした。
「いただきます」
赤くみずみずしい果肉にねっとりと絡みついた白い練乳が絡まったそれを、ライナはほおばる。
「ん、うまい!」
「どれどれ」
シオンもライナの言葉に期待を膨らませて苺に手を伸ばした。青年の白く長い指が、つややかに光る苺をつまむ。
「お、っと」
すると、練乳が一滴口元まで運んだとき落ちかけた。シオンは咄嗟に舌を出して受け止める。
「ふぅ危なかった……うん、おいしいね」
いたずらがばれてしまった子供のように笑うと、苺を口に含む。ゆっくりと租借して、シオンは心からの眩しい笑みをライナに向けた。
「お、おう」
「どうしたんだ、ライナ。ちょっと顔赤いけど」
「なんでもねえよ」
シオンが下から覗くように聞いてきて、ライナはばっと顔を横に向けた。
「ふ〜ん、まぁ別にいいけど――う〜んこの酸味と甘みの絶妙な混ざり具合、おいしーっ」
苺の魅力の前に、シオンはライナを問い詰めることは放り投げた。次々に胃に収めている。
「ほらライナ、早くしないと俺が全部食べちゃうぞ、と」
「ふぐっ」
ずい、とシオンがライナの唇に苺を押しつけた。そのままライナは苺を口に取り込んでしまう。
「むぐぐぐ……シオン! おどかすな」
「ライナがぼーっとしてるからだよ」
悪気なく笑うシオンに、ライナはがくっと肩を落とした。とりあえず、口の中の苺を租借する。心中とは関係なく、うまかった。
「ああほら、ライナのせいで指に練乳べっとべと」
「俺は関係ないだろ」
ジト目で睨まれようが、シオンは訂正しなかった。そのまま指先を口に含む。まずは中指。ちゅぽんと景気のいい音を立てて口から抜くと、次に人差し指を置くまで入れて抜き差しする。
「ん……」
次いで親指。ちろちろと舌先を出して、シオンは丹念になめとった。
「よし、きれいになったあ」
指を眺めて、シオンは満足げに言った。その隣で、ライナは盛大にため息をはく。
「あのなぁ、シオン。おまえそれわざとか」
「ん、なにが?」
「べつに」
シオンが視線を移したとき、ライナはすでにそっぽを向いてしまっていたので、彼の表情は見えなかった。ライナはうつむいたまま黙々と苺を口に運ぶ。
その後は何事もなく、苺の入っていた皿はからになった。