「ガイ様華麗に参上!」
上段に構えたレプリカ兵を下敷きに、ガイは次に襲ってきた兵をなぎ払う。
「アッシュ大丈夫か!?」
振り返れば、呆然と口が開いたまま塞がらないアッシュ。
「ガイ、ここに一体何を」
信じられないものを見る目で、少年はあえぐように呟く。
「助けにきたに決まってるだろ」
返事と同時に、それが答えとばかりにもう一人レプリカ兵を倒す。
「ほら。ぼさっとしてないで、さくさくやっちまおうぜ」
ガイは走りだす。遅れて、アッシュもあとに続いた。無表情に襲ってくるレプリカ兵の群れに突っ込むと、ガイは派手に秘奥義を炸裂させた。ダウンした隙に、アッシュがエクスプロードで広範囲に散った取りこぼしにとどめを刺す。
「やったな!」
満面の笑みでアッシュのもとへ駆け寄ってくるガイ。アッシュは思わずそっぽを向いた。
「あれ、どうしたんだ」
「突然すぎだ! 何事かと思ったぞ」
「うん、でも間に合ってよかった」
抵抗する暇もなかった。
抱きしめられたのだと認識したときには、すでに解放され、わしゃわしゃと頭を撫でられていた。
「な、何をする!?」
「いや、ほんとよかったよかった」
一向に頭から手をどかさないガイに痺れを切らし、アッシュは自らガイの手をはたき落とす。
「それは、俺が殺されなかったことに対してか」
「それもあるし、他にも色々」
赤くなった手を、嬉しそうにひらひらさせてガイは言う。
「残念だったな、運命は変えられない」
対象的にアッシュの表情は晴れない。
「今、レプリカ兵に殺されずとも、俺は死ぬ」
「ああ」
ガイの返事は穏やかだった。思ってもいなかった反応に、アッシュは困惑する。
「でも、俺ずっと待ってるから。それだけは伝えたかった。伝えられて、よかった。ザイン相手に言ってもいいんだけどさ、でもやっぱり直接伝えたいだろ、こういうの」
「おまえは馬鹿か」
「俺だけじゃない、みんな待ってる。約束は守ろうぜ」
「……」
アッシュはため息をつく。馬鹿につける薬はない。諦めと嬉しさと。
「ならば、持って行け」
アッシュは膝をついた。もう、限界だった。自我が歪む。音素が乖離するのは水に飛び込んだときに似ている。解放感と喪失感がごちゃまぜになって、最後に恐ろしくなる。けれども今は怖くない。がっちりと誰かが体をささえてくれていた。
「はは、案外あっけないもんだな」
「            っ」
ガイが何か言っている。口がバカみたいに開いて、面白い。
――そんなに慌てるな、笑ってしまうじゃないか。
そう言ったつもりなのに、声が耳に届かない。
ガイの顔がぶれる。
握られた手と、支えられた背が温かい。
それだけしかわからなくなって、アッシュは目を閉じた。
「アッシュ!」




唐突に倒れたとき、覚悟していたのに、わかっていたのに怖くて仕方がなかった。冷たく、軽くなっていく体。強く握っても、握り返してくれない手。
「ごめん、アッシュ、ごめんっ」
焦点を結ばない瞳で微笑む姿は、いっそ壮絶だった。
バカだ。すぐに譜石になってくれるようにすればよかった。
例えレプリカ兵から助けてもアッシュは死んでいたと、知っていることが大切だったのに、少しでも離していたくてこのときを迎えさせてしまった。
「アッシュ!」
碧の眼が光を失い、目蓋が降りると同時に手の力が抜ける。
叫んだときには、ガイの手に譜石が握られていた。

続く

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